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わたし、デザイナーに向いてない…かも? | #アートとコピー (4)

「全てがデザイン」

そう聞いた瞬間、

「やっぱりわたし、デザイナーに向いてないかも」

という考えが頭をかすめた。


「全てがデザイン。」これは、コピーライター養成講座「ART&COPY」コースで登壇されたゲスト講師アートディレクターの小杉幸一さんの言葉だ。
クリエイティブはもちろん、チームとの関係性も、タイムマネジメントも、全部。全部がアウトプットにつながっていく。そういう意味で「全てがデザイン」。


この話を伺って、制作会社時代の後輩のことを思い出した。
彼はいくつかの案件に対しメインのデザイナーとして担当についていたが、いっこうに打ち合わせに連れて行ってもらえない。
実力は担当になれるくらいあるのに、クライアントと直接やりとりができない。彼は常識がないわけでも、無礼なわけでもない。むしろ誠実なタイプだ。
社内で制作だけ請負続けることは彼の成長の妨げになるように思い、営業担当にこっそりと彼を連れて行ってほしいと頼んだ。

「清潔感がなくて、連れて行けない。」

営業担当からの返答はこうだった。
身長が高くて、ガタイもいい。ただでさえ圧があるのに、よれよれのシャツやスーツでは連れて行っては印象が悪い。

要するに、「良いデザイナー」に見えない。

そう言われてしまって、何も返すことができなかった。
社内ではできるだけ長時間働いても大丈夫なようにゆったりした服装、ほぼすっぴんな化粧だった私ですら、客先に出向く際は小綺麗にしていたつもりだ。製薬会社にはスーツ、化粧品会社にはビジネスっぽさがすこし抜けた鮮やかな色のスカートなど、行き先により変えていた。
「デザイナーの人ってみんなジーパンにジャケットみたいな感じですけど、ちゃんとされてますよね。」と結構な頻度でお客様に言われたものだった。
正直いえば、小さな会社から都心の高層ビルに入った大手企業に向かう私なりの鎧であり盾であったけれど…。

後輩の彼は、自分が打ち合わせに出してもらえないことにやきもきしているようだったが、ついに誰かが助言したらしく、ある日突然スーツから何から一新して出社した。そうして担当デザイナーとして外出していくようになった。


「一人一人が無意識編集者」

これも小杉さんの言葉だ。
人はいろんなところから情報を集め、無意識に編集して受け取っている。一つの商品に対して、CM、新聞広告、ラジオ、店頭POP、SNS…数えきれないほどの媒体から受けとった情報からその商品に対する印象を自分の中で作り出す。
すべてのアウトプットがデザインされていないと、受け取る印象もばらばらになってしまう。

前述の後輩についても同じことが言えるように思う。
同じくらいの力量のデザイナーが2人いたとして、
清潔感があっておしゃれなデザイナー
なんとなく、よれよれなデザイナー
どっちに仕事を頼みたいかといえば、前者だろう。
これはデザイナーに限った話ではない。
ただ、職業を問われデザイナーと答えると、だいたい「かっこいいですね」と返ってくるので、デザイナーのイメージはおしゃれなんだろうと思う。


服装が奇抜でも、「デザイナー」といえば納得するかもしれない。
おしゃれならいいデザインをしてくれそう。
多少小汚くても、デザインが最高だったり、言うことが理論だっていたり、Twitterのフォロワーがたくさんいたりしたら「デザインだけに専念してきたプロフェッショナルなのかも」と納得するだろう。
デザイナーである自分ですらそう思うのだから、
まったく関わりのない人たちなら……どう思うだろうか。


冒頭に戻って。
「全てがデザイン」と聞いた時、
「私はやはりデザイナーに向いていない」と思ってしまった。
なぜなら、見た目もおしゃれじゃないし、コロナ禍においてステイホームが推奨されてから体重はまったくマネジメントできていない。
タイムマネジメントも…締め切りは守るが、昼まで寝ていたり、徹夜したり、無茶苦茶だ。
デザイナーっぽくなさそうな見た目を自覚して、職業を聞かれるのがいやだ。
デザインは……著しく悪いとは思わないが…私よりすごい人はそこらじゅうにたくさんいる。
自分自身をデザインできていない、「デザイナー向いてないかも」と思っているデザイナーに、はたして仕事を頼みたい人がいるだろうか。


と、ここまでとてもネガティブになってしまったが、
それでも私を信用して仕事を依頼してくれる方はいる。
フリーランス2年目だが、ありがたいことに、ほぼ営業活動はせず、
過去のポートフォリオと人付き合いだけで仕事をいただいている。
(このままでいいとは思わないけれど…)

デザイナーとしてちゃんと見てくださる方もいるということだ。

デザイナーになって約10年、3日に1回は「デザイナーに向いていない」と思ってやってきた。
でも、24時間に1回はデザイナーとしてやっていきたいと思っている。
まだまだ「全部デザイン」できていないのはわかっている。
でも一方で、自分は自分のままでデザイナーになりたいとも思う。
(そう思って、正直に「デザイナーに向いていないかも」を隠さず書いてしまった。)
そしてデザイナーとして自信をもったら自分が終わってしまうような気もしている。
ずっと揺らぎのなかにいるけれど、それを続けてやってきた。

私が私をポジティブに解釈して、それをどうやって伝えていくか。

このままの自分でいいとは思わないけれど、
落ち込むまえにやることがあるじゃないか。
そう思いはじめている。


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