美しき国『みちのく』

東北地方は、私にとってまさしく未知の国であった。

私は、中部地方で生まれ育ちそのまま地元の職場へ就職した。旅行で他の県へ行くことは何度もあったけれど、東北地方は選択肢に上がることがなく過ぎていき、友達の結婚式で仙台に1回足を踏み入れたっきりだった。その時も18年共に暮らした愛犬が今際の時であったため、とんぼ返りした。

そんな私が岩手県出身の男性とお付き合いすることになり、そして結婚することになった。それが昨年の2月のこと。

東北地方で知っている事は、とにかく田舎で仙台の牛タンや青森のりんごが有名というお粗末な知識しか持っていなかった私にとって、岩手は何が有名なのか、どんな観光地があるのか全くと言っていいほど知らなかった。朝ドラのあまちゃんも未視聴だったのである。失礼な話であるが、私の頭の中の都道府県別地味な県ランキングで岩手は上位に食い込んでいた。

そして、快晴の2月、結婚の挨拶に行くために私は岩手県へ飛び立った。

花巻空港に着き建物の外へ出ると、冷たい空気に頬がぴりぴりして、寒いのが苦手な私は思わず身震いした。やはり北国なだけあって寒さが鋭い。駐車場の隅っこには、何日か前に降ったであろう雪が溶け残っていてカチコチに固まっていた。天気が良いから今日はまだあったかいという旦那にぎょっとして、丁寧にレンタカーの説明をしてくれるアルバイトと思しきお兄さんに、早く車に乗せてくれと思い、岩手の冬はとても厳しいのだと肌で感じた。

車が空港を出て公道を走り始めると、私が生まれ育ったところとは違う景色が広がっていた。旦那にとっては名もなき田舎道の見慣れた風景のようだが、地方都市で育った私からするとそこはとても美しい世界だった。岩手は田畑が多く、まっすぐ伸びる道の両端は見渡す限り畑だった。冬はそれらに雪が積もっていて一面真っ白になる。右側だったか、横を向けば雪化粧の山々がくっきりはっきり。空の青さとの対比がとても奇麗で、開始早々私は岩手の冬の美しさが好きになった。車内から撮ったからあまり写りが良くないのが残念だが、晴れた日の雪景色は素晴らしい。

これも知らなかったが、東北の冬の風物詩として白鳥の飛来がある。旦那の実家に向かう途中にやたらデカい鳥が飛んでいたので旦那に聞くと、白鳥だと教えてくれた。白鳥は渡り鳥でシベリアやオホーツク海沿岸が生息地だけど、寒くなると日本などの温かい地域に南下して冬を越すらしい。私にとっては極寒の岩手も、白鳥にとっては常夏の島なのかもしれない。野生の白鳥を見る機会なんてなかなかない。未知との遭遇に胸が高鳴り、旦那にせがんで川へ立ち寄ってもらった。白鳥の飛来地として有名な池に行くと群れに出会う事ができるらしいが、今回は町中の小さな川へ。土手を上り川を覗き込むと、そこにもちゃんと数羽の白鳥がいた。人に慣れているのか、この距離まで近づいても怖がるそぶりは見せずのんびり泳いでいる。

きゅーきゅーと高い声で鳴く姿はなんとも可愛らしい。もともと動物が好きなのもあり、私はすぐに白鳥のことも大好きになった。

またしても、岩手は私の心をぎゅっと掴んでくる。都市部で育った私にとって、岩手のダイナミックで美しい自然はある意味とても刺激的だったのだ。岩手へ降り立つ前の失礼なイメージは霧散し「美しき国」岩手が深く刻まれた。岩手は冬は厳しいからこそ美しいのだろう。

それが私と岩手の出会いだった。

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