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トウモロコシ粉にハマる

在仏。地元にはアジア・アフリカ食材を扱っているお店がいくつかある。所狭しと商品が押し込まれていて、一昔前の雑貨屋や駄菓子屋を彷彿させる。異国の香辛料の香りと、冷凍品などいつ入荷したんだろうと思うような胡散臭さとが漂う、雑然とした店が多い。

20年以上も住んでいるのに、今年の夏、存在に気づかなかった店を見つけた。んで早速足を運んだ。

中国系の方のお店だけれどアフリカ系の顧客が多く、大量に冷凍の魚や鳥を買っていく。台車を使って段ボールを積み上げてるのにはびっくり。商品を補充するお店の人かと思ったよ。鳥丸ごと詰め込まれた冷凍段ボールが大人気。大人買い状態。でもどうしてなんだろう。ハラルなのかな。ハラルならマグレブの人たちも来そうなのにと思いつつ、アフリカ・マグレブはそれぞれ強固なネットワークがあるから、マグレブの人たちはそっちの系列の店で買うのかなと推測。

にしても、あんなに箱買いしてどうするんだろう。激安なのかなあ。だとしても一度にあそこまで大量に買うのが不思議でならない。好奇心を煽る。

別の日、夏の真っ昼間のあるアパートの入口で、積み上げた段ボールと中に入っている大量の、暑さで解凍だか半解凍された鳥を日本の大きなゴミ箱サイズの容器2つに、汗をかきながら次々と放り込んでいく疲れた様子の男性二人を見かけた。アパートの前でレストランの前じゃないよ。大家族にしても、知人で分けるにしてもほんと、目を見張る量だよ。容器山盛りだったもん。あ、2つじゃなく3つだったかも。

んで。冷凍品や冷蔵品コーナーでは目を見開いて何度か往復し、懸命に納豆を探したがやはりなかった。ぐすん。売ってるお店もあるんだよ、きれいな所で。でも日本で80いくらで売ってるものが7ユーロ超えてると(投稿日時点だと1,117円に相当)食べる気なくなっちゃうんだよ。強気なお値段の観光地のコーラみたいに急に「いいや」ってなっちゃう。

商品をまったり眺め歩いていたらコーンスターチを見つけた。1kgで激安。この胸の高鳴りー!ただ一つ問題があって、黄色いのもある。表記は同じ。これは見たことがない。だからどう違うのかも分からない。値段も同じ。お店の人に聞いたら良く分からなそうに、でも「同じだと思う」と言い切った。黄色い方が売れてると聞いて、そっちを買ってみた。

家に帰って調べてみたところ、お姉ちゃん、違うみたいよ。これ、話に聞くトウモロコシ粉で、コーンスターチとはまた別の使い方をするようだ。言われてみると、南米でよく使われてるのを思い出した。レシピを探してみると、これまた名前だけ聞いたことのあるイタリアのポレンタが出てきた。色も黄色いし、トウモロコシの味がするのかなあとか、お湯で溶いたらコーンポタージュみたいになるのかしらんと、想像だけで浮かれてふわふわした気分に。こちらのレシビでポレンタを作ってみた。量は100g、水400で。あと塩少々。

いやこれ、凄い力仕事。簡素な泡だて器しかないんでそれで作ってたんだけど、泡だて器が壊れるんじゃないかと思うくらい。これ、レシピにあるように木べらが必要だよ。焦げないように気をつけなきゃならないし大変。しかもプツプツ跳ねて熱くてたまらん。筋トレも兼ねられるよ。暑い日じゃなかったから良かったけど、暑いときはこれ無理。100gでこの有り様なんだから、大人数分なんて論外。

んでワクワクしながら食べたんだけど、正直ちょっとがっかりした。あんなに頑張ってかき回したのに、まずトウモロコシの味が全然しない。色だけだよ。そして思い出した。こっちで買うトウモロコシって「どうして?うちら家畜?」と思うほど甘くない。そもそもフランス人は、缶詰のコーン以外トウモロコシを食べる習慣がない。だから改良もされないんだろう。缶詰のだって味しないよ。あ、でも今年皮付きで売ってたのは、日本のには及ばないものの甘さがあって感動してリピもした。皮付きで売ってること自体珍しいんだよ。

あと、こちらの食べ方が確実に悪かった。ポレンタは料理に添えて一緒に食べるもので、それだけで食べるものではない。それを承知の上でやった。だから絡めるソースも何もなく、味気ない。当然だ。

食感としては見た目に反し、同じ添え物のマッシュポテトのような軽さはない。見た目が似ているカスタードクリームの柔らかさと喉越しもない。もちもちねちょねちょしていた。これ、熱々にチーズ混ぜたら美味しそう。チーズがきれていたのが残念でならない。あと冷やすと口当たりが外郎に似ていることに気づいてしまった。これっておやつ系でいけるんじゃ?くず餅とか、きな粉と黒蜜かけたら良さげなんだけど!和物に飢えてる身だから、心が思いっきり踊り始めちゃったよ。

んで木べらを買っちった。怒られそうでイタリア人には言えまいと思いつつ、甘いのを試したら、よっしゃーあああ。邪道大勝利。満足いくものが出来上がりました。外郎もどきも似非葛餅もおいしくてニコニコ、自画自賛。自分がハッピーなら邪道でも良いのだ、ふはははは。

トウモロコシ粉の最大の功績は私をキッチンに立たせたこと。伏せていたし、とてもそうにはみえないだろうけど、長期に渡る重度の鬱やパニック障害、未遂その他諸々で、やる気があっても出来ないか、全くやる気が起こらなくて冬籠もりの熊と化していた。そんな私を動かしたのは凄い。現在も熊。食材店が通院先の手前にあったのもラッキーだった。

元々食い意地が張っているけれど、それですら動けなかったのに。普段は恥ずかしいその食い意地を今回は褒めてあげたい。そして作っておいしく頂いてご機嫌になれるなんて、ほんと信じられないよ。ありがとう、トウモロコシ粉。そして食材店のお姉ちゃん。あなたのお陰です。どうもありがとう。それからいろいろなレシピを公開してくださってる皆さん、ほんとにどうもありがとね。

後日友人のイタリア人に報告したら、大笑いしながらNoooooon !と大きなジェスチャー付きで言われた。でもおやつとして牛乳に浸して食べると激旨だと教えてもらった。それもどうかと思うよ。少量とは言え、塩が入っているものを牛乳漬けでおやつ。食事じゃなくおやつとして合うのかなあと思ったけど、いつか試してみたい。それより先に試したいレシピをいくつか見つけてしまって心は既にそっちに行っちゃってたんよねー。

で、友人が語るに、おばあちゃんが皆で集まるときによくポレンタを作ってくれて、それが凄く美味しかったと。ステレオタイプのイタリア人のようなジェスチャーと早口で教えてくれた。相当な人数分を大きなお鍋で一時間以上かき回すんだとか。おばあちゃん、恐るべし。いやほんと無理よ、100gでも作ってみたら分かるけどこのざまなんだから。子や孫を思って作ってくれる愛情と時間をたっぷりかけた力技料理が美味しくないわけなかろう。


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