見出し画像

『ナチュラル英語を絶対聞き取る! 5段変速リスニング完全マスター』良書だ

リスニング特訓シリーズ第6弾だ。本日取り上げるのはこちら。

多聴多読で知られる出版社コスモピア、かつ5段変速とかいういかがわしいタイトルに惹かれて購入。

著者の新田晴彦氏は洋画のスクリプトなどをよく出しているようだ。シナリオライター養成校の講師、大学の英語講師なども務めておられるようで、期待が高まりまくる。

第1章は理論編である。話す速度は通常は1分間の語数(wpm)が用いられるが、本書では1秒間の音節数spsがより正確な指標ということで使用される。

映画を分析すると5-6spsの速度帯が一番多くて、2-9spsの幅がある。これがナチュラルなスピードと定義される。速度が9spsに近づくと非ネイティブの英語上級者は聞き落とし率がどんどん大きくなって40%以上にもなる。一方ネイティブは5%弱にとどまる。とはいえネイティブでも早くなるとすべてを聴き取れているわけではないというのも興味深い。

聞き落としの多くを占めるのは機能語である。語彙全体で0.1%にすぎない機能語は、実際の会話では80%を占めるといわれてている。英語ではきわめてぞんざいに発音される機能語の聴き取りが非ネイティブにとって難関である。

以前に紹介した『理想のリスニング』では、機能語などアクセントのこない音節はとりあえずは気にしなくていいということだった。

これはこれで理にかなっていると思うが、本書は「80%をしめる機能語が聴こえなくても気にしないのはどうなん?」という極めて意識の高いコンセプトを掲げているのである。

ストレスが置かれない語彙は、たとえて言えばスポットライトの当たらない脇役のようなもので、主役の後ろに隠れて主役をサポートする存在。姿がよく見えない地味な脇役たち。主役をフロントエンドとするならば、脇役はバックエンド。私たちが学習するのはバックエンドである。フロントエンドを勉強するのは楽しいがバックエンドは地味。では地味な勉強が待っているのかと考えたそこのあなた、いきなり寝ないように!会話の80%がバックエンドの語彙でできていることを思い出すように!

第2章からは実践編。まずはプリテストと称して、リース・ウィザースプーン、レニー・ゼルウィガーなどハリウッドスターのインタビューだ。素で聞いたら笑けるくらい聴き取れない。なのでスクリプトを見てみると、機能語が隠してあって内容語が書いてある。普通逆やろと思うが、機能語を聴き取れるようになるというコンセプトだから当然こうなる。

ここで軽く心を折られたところで以下はえんえんと機能語のリダクション(脱落)の練習だ。

最初はgoing to(gonna)だ。それくらい知ってるわと思いつつ再生ボタンを押すとこれまた面白いように聞こえない。それもそのはず、gonnaなんて言ってないから。I'm gonnaですらなくて、I'mnaみたいになってるのである。再生速度を落としていくとmとnの間にわずかにスキマがあるようにも聞こえるが、それでもgonnaとは聞こえない。。。

という調子で助動詞、前置詞、代名詞、副詞などのリダクションがえんえんと収録されている。なので網羅性という点でも申し分ないと思う。ネイティブの崩れまくった音声をゲップが出るまで聞いてくれ。

ちなみにタイトルの5段変速とは、ネイティブのナチュラルな音声を10%ずつ遅くして元の半分の速さになるまで5種類の音声も収録しているということである。半分になっても聞こえないものは聞こえないということがよくわかる。だって言ってないんだもん。

私は本書が大変気に入ったのであるが、機能語以前に内容語が完璧に聴き取れていないのである。優先順位が高いのは内容語であろう。内容語さえ聴き取れていればあとはだいたい推測できるからである。

しかし著者の「80%が聞こえてなくてほんまに自分それでええのん?」という問いかけに、意識の高い私としては煩悶せざるをえないのであった。

サポートは執筆活動に使わせていただきます。