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緒方貞子『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』読了

昨日に続いて国連英検のお勉強シリーズだ。

今日は10年間国連難民高等弁務官(UNHCR)を10年にわたり勤めた故緒方貞子氏の日記兼回顧録兼講演録だ。

緒方氏は外相、首相をつとめた曽祖父犬養毅を筆頭に外交官一家に生まれた。幼少時から海外生活を送っておられて語学が堪能だったようだ。ちなみに岳父は朝日新聞の主筆であった緒方竹虎である。まあこれくらいのバックグラウンドがないと欧米の政治のインナーサークルには入っていけないよね。

最初から外交官だったわけではなくて、学者出身である。日本の近現代史を主に研究されていたとのこと。いつかそうしたお仕事についても読んでみたいものだ。


今回読んだ『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』はまず1993年ころの多忙な日々の日記からはじまる。旧ユーゴなどに展開するUNHCRの職員が襲撃されたり、ときには亡くなったりするので大変な仕事なんだなあと思った(KONAMI)

緒方氏がUNHCRに在職した1990年代は冷戦終結により世界中で紛争が多発した時代だ。湾岸戦争、旧ユーゴスラビア連邦の崩壊、アフガン内戦、ザイールやルワンダの内戦などなど。国連の平和構築ミッションも1980年代末から激増している。

これらの戦乱は多数の難民を生む。こうした難民を一時保護し、紛争が落ち着いたら帰還を助けるのがUNHCRのお仕事である。緒方氏の語り口は理知的でありながら楽観的でもある。そのおかげでなんとなくではあるけど、活動内容についてイメージをもつことができた。

難民よりも難しいのは国内避難民(Internally displaced people)である。紛争地域内で避難して国境を超えない人々である。国境を超えなければ主権国家の域内にいるわけであるから国連は手出しできないのである。しかし国境を越える前に保護するほうが疲弊しなくていいんじゃないか(国境はたいてい川とか山なので)、と緒方氏らは考えて国連のほうが越境して避難民を保護するのだ。

昨日書いたこととも関連するけど、緒方氏は国連やNGOなどの人道援助団体が現地入りしても、警察などの既存の国家機構が機能していなければなにもできない。紛争がおこるのはそれらが機能していないことが通常であるから、援助といっても簡単なことではない。初等教育すらまともに行われていなかったりする。

などといったことが、日記に続いて、講演、インタビューの形で収録されているのが本書というわけである。最後に若い人たちへの熱いメッセージも添えられている。若いときに読みたかったなと思うが、若いときに読んでたらピンと来なかったかもしれないな。

まあ今でも思うところはある。途上国が大変なことになっているのは欧米列強のせいではないかとか、日本国内の貧困が問題なのになぜ海外に援助しなければいけないのかとか。もちろん世界平和に貢献することは日本の国益でもなりうるのは理解している。そしてこうした複雑なことをちゃんと英語で説明できるようになりたいなあ。

なにはともあれ国連英検を受験する方は緒方氏の本は読んでおいたほうがいいのではないかしら。Kindle unlimitedでインタビュー集があったのでリンクはっときますね。


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