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老いの苦しみは機械化で緩和できるか

この週末は老いの苦しみと死の苦しみについて考えていた。ゴータマ・ブッダの四門出遊とはあまり関係がない。

老いの苦しみへの対応としては、年金と安楽死がある。しかし死の苦しみは、現代の日本ではほぼ無限大と見積もられており、なんとしてでも避けるべきものとなっている。よって現実的には年金で老いの苦しみに対応するほかない。介護などの制度については後述する。

年金とは本来は長生きしてしまった保険であった。とても長生きしてしまった人から労働を免除するものであった。しかし長生きしてしまったとはいうものの、現代の日本では(なんとしても死を避けるべきことの裏返しとして)長生きは好ましいものとされている。昨年来の疫病はそのことを明らかにした。

しかし保険とは本来は、不慮の死などの突発的な好ましくない事態に備えるものではなかったか。長生きという好ましいとされる事態に備えるというのはなにか矛盾しているように思えてならない。
モラルハザードの余地がありまくりだし、年金そのものが長生きのインセンティブにもなっている。現役世代の労働の対価を搾取することを正当化するのが難しくなっている気がしてならない。

そもそも年金という働かない人間に財を供与する仕組みが可能となったのは、工業化により爆発的に生産性が上昇したためである。このようなフリーライダーを許容する制度は、それが生産性の向上に比して少数者である限りにおいて好ましい効果をもたらした。弱者であっても包摂してくれる社会のほうが生きやすいからだ。

ではフリーライダーが非常に多くなったらどうなるか。

自分はモノの生産についてはかなりバッファーがあると考えている。日本を始めとする先進国ではモノの生産性は高く、これからもAIやロボットの導入でますます生産性が高まるだろう。
しかしフリーライダーの割合がどれくらい高まったときにインフレ圧力がでてくるかは誰にもわからない。インフレ圧力はさらなるイノベーションのきっかけにもなるし、賃金の上昇を伴うと制御困難なインフレーションにもなりうる。

製造業に賃金上昇圧力がかかったときにまずおこるのは、サービス業からの労働力の移動である。そうやって労働供給が保たれていれば賃金によるコストプッシュインフレにはならない。
しかし労働供給が減るサービス業ではなにがおこるか。余剰な人員が製造業に移動し終わると当然こちらにも賃金上昇圧力がかかるだろう。国内版バラッサ・サミュエルソン効果が発生する。

サービス業でも賃金が上がり始めると、機械化で対応できることは機械化していかないといけない。しかし機械化による生産性上昇などたかがしれているのがサービス業である。例えば、風俗や水商売がロボットに置き換わったらあんなバカ高い料金を誰が払うだろうか

風俗や水商売のような一部の需要が異常に強い産業については賃金および価格の上昇で対応することになるだろう。機械化による顧客満足度の低下がわずかな産業は機械化により賃金上昇圧力の影響を緩和できる。

では要介護老人のお世話はどちらになるだろうか。機械化による満足度の低下は大きいか、小さいのか。まあとりあえず映画『マトリックス』における人間みたいに、機械につながれて栄養されている状態を想像してみようか。

機械化を受け入れず、現状のように人力に頼るなら膨大な人間を動員しないといけない。医療とか福祉とかいった産業で働いたことのある人は、動けない人間のお世話にどれだけ甚大な手間暇がかかるか知っていると思う。あるいは家族を自宅で介護したことのある人も。

また、死をなんとしてでも避けなくてはならないことになっている社会で、要介護老人をお世話することは精神的にも肉体的にもとんでもなくdemandingである。

機械化に頼らずこのような重労働に人間を動員しようとすると、高賃金で報いるほかない。すでに製造業との労働力の奪い合いが始まっているならなおさらである。ここでも結局は全般的な、賃金によるコストプッシュインフレーションがおこる。

インフレ結構じゃないか、日本はインフレを目指してずっと苦闘してきたのではないか、という意見もあるだろう。10%くらいまでのインフレは問題ないという論文もどこかで見たことがある。

しかしそのようなインフレ下において労働者がどのような労働を選好するか(あるいは働かないか)は予想不可能だ。予見困難であることそのものがインフレの弊害のさいたるものなので当たり前なのだが。
全ての産業で賃金が上がっていく世界で、要介護老人のお世話というのは、膨大な労働人口を惹きつけるほど魅力的なものなのだろうか。
のりピーにとってはあまり魅力的ではなかったようだが、賃金が上がっていく社会では誰もがのりピーほどじゃないにしても職業選択の自由を享受できるのだ。


今日は疲れたのでここまで。賃金や物価水準については貨幣で考えたが、なるべく貨幣で考えないほうがいい。どんな資産家でもそれによって買えるものが供給されなければ意味ないからね。
貨幣についてなるべく考えないようにするために、税金とか保険料については今日は無視した。これらはインフレを抑制するための強力なツールであるから本来は無視してはいけないものである。

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