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佐藤岳詩『メタ倫理学入門』読んだ

ようやっと読み終わった。

かなり評判が良かったので出版されてすぐ買ったのだが、途中まで読んで5年以上放置していた、、、

倫理学は哲学の一分野であり、メタ倫理学とは実践的な規範よりもより上位の倫理について考える学問らしい。哲学とか倫理学という時点で十分メタいのに、さらにメタと付いているのはややredundantな気がしなくもない。

本書はタイトルのとおり、そのメタ倫理学の入門書なのである。

メタ倫理学は、客観主義、主観主義、両者のいいとこ取りの3つに大雑把に分けられる。

客観主義は道徳は客観的に存在している、あるいは措定しるという考え方である。人によって変わらないという安定性、道徳はたしかに存在するといえる、などのメリットがある。

主観主義は、客観主義とは違って、道徳は人の主観によって決まるとする立場で、個人的にはこちらのほうが私の直感に近い。

いいとこ取りはそのまんまいいとこ取りであるが、両方からしばかれるというデメリットがある。

メタ倫理学はこの3つの立場を行ったり来たりしつつ、時代背景やテクノロジーの進歩をふまえて発展してきた。本書はそれぞれへの反論、再反論をえんえんと記載することで、メタ倫理学を概観しようというものだ。同じところを堂々巡りしているようにも見えるので、それで途中で放り出してしまったんだが、、、

客観主義のような立場からは、道徳的性質や事実はたしかに存在するという実在論が出てくる。
そのようなものが存在するのであれば、私たちはそれらをただ認識するのであって、判断したりすることはない。これが認知主義である。

逆に主観主義的見地では、道徳的性質や事実は存在しないという非実在論になる。したがって道徳についてなにかを述べるときには、なにかを道徳的に正しいと判断していたり、道徳的に正しいことを自他に奨励することになる。これは認知主義に対して表出主義と呼ばれる。背景に言語行為論があるのは言うまでもない。

現実には社会によって異なるルールが存在しており、この世界に客観的で普遍的な道徳が存在しているとはいいがたい。多様性バンザイである。

その一方で道徳など存在しないというのも直感に反している。子供を虐待しても問題ないといわれたら不快感や違和感があるだろう。

この矛盾を解消するための一つの方法は、神様とか欧米とか教師とか国連とか、なにかしらの権威を想定することであり、歴史的にはわりとうまく機能してきた。
しかしその権威が定めるルールに従うのは、権威が正しいからなのか、そもそも正しいルールだからなのかと問われると混乱する。そもそも正しいなら権威など必要ないし(そしてそもそも正しいのはなぜなのか)、権威が正しいなら、その権威が子供を虐待せよと命じたら子供を虐待するのか、という小学生の学級会レベルの議論になってしまう。

あるいは道徳は虚構だと認めた上で、道徳があることで社会がうまく回るならそれでいいじゃないかという功利主義的な考え方もある。しかしこれでも、社会がうまく回るとはどういうことなのかという道徳に関する問いに答えなくてはならない。
また道徳が虚構だとは直感的には受け入れがたい。子供を虐待してはならないのはフィクションであると言われも困ってしまう。

というようなことが300ページにわたってえんえんと書いてあるのだ。しかも入門書なのでこれ以上は立ち入らないといたるところに書いてある。最終章ではそもそも道徳的に善く振る舞わなければならないのか?と卓袱台返しまでやってくれている。入門書なのにもうお腹いっぱいなんですが、、、

でも読んでよかった。

Twitterなどではよく事実と価値判断を峻別せよと言われる。小学校の国語の授業でも、事実と筆者の意見を読み分けないさいと教わった。

しかし世界には客観的に道徳的事実が存在するという立場では、道徳的な判断はなく、ただ事実として道徳を認知することになるのである。そこに事実認識と価値判断の区別はないのだ。

この3年ほど、科学的事実と称して価値判断をしまくっている人たちをたくさん見てきた。特に医学なんてイデオロギーが混入しまくってる科学なのに、科学的事実だから従うべきというお医者さんが多くいるのには驚いたものだ。

しかし今やその謎は解明されたのである。彼らにとって、私には価値判断まみれにみえる「科学的事実」とは、まさに客観的に実在する事実や性質なのであって、疑う余地などないのだ。

事実と価値判断が渾然一体となっている世界観もありうると気付くことができてよかった。それは私にはとうてい納得しがたいことであるけれども、そういう発想もあるのだなと。
いや発想という言い方はよくないな。彼らにとってはrobustなousiaなのだから。

というようなことを思って、お腹いっぱいと言いつつこんな本をAmazonのウィッシュリストに入れてしまったのであった。


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