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天使の跳躍を読んだ(ネタバレあり)

 久しぶりに小説を読んだ。天使の跳躍。七月隆文著。面白かった。主人公は将棋の木村一基九段。数年前46才で初タイトルを獲得し中年の星と喝采を浴びた人だ。作中では田中一義という名前が与えられ一応、架空の人物となっているが、ほぼほぼ木村九段と言っていい。この田中一義八段をより映えさせるべく、現実を切り貼りしてifの世界を作りあげちゃいました。そんな小説。
 タイトル戦の相手が豊島くんから藤井くんに変更。ついでに藤井くんは超絶美青年に。奨励会同期の戦友はナメちゃん野月さんアウト、てんてーイン。てんてーは主人公のピンチに「たまたま通りかかってな」と壁に寄りかかって登場する。そんな風にそれぞれがカッコいい方向に盛られている中、軍曹だけがヒール感を盛られて悪の将棋マシーンになっている。おもしろい。怒られないのかな。
 ものごころが付いた時から死ぬまで将棋を指しつづける棋士という生き方。その恍惚とか不安とか倦怠とかが田中八段を通して見事に描かれている。特に最大の敵は藤井くんだとして2番目の強敵がビールの誘惑であることには膝を打つ。そんな人の機微が劇画調の物語に乗っかって進み、友情努力そして最後はちゃんと勝利する。俺のページをめくる手は止まらない。
 一番笑ったのは田中八段の応援に、天彦深浦郷田なべがラーメン三銃士みたくカメオ出演してきたところ。この四人と羽生さんが田中九段にそれぞれの得意戦法の秘策を授けるのだった。「雁木要員としてね」「ならば僕は矢倉要員ということで」
 作品オリジナルのキャラにもどこかしら実在の棋士の影がちらちらしていて、田中八段の弟子の奨励会員には大地と勇気と天野くん、田中九段に惚れている美人女流には、上田さん西山さんやうたんの影を感じた。かとももちゃんの要素も入ってたな。
 山ちゃんの出番は今回なし。ただ早投げして羽生さんに怒られたエピソードは田中八段羽生さん間のものとして使われていた。

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