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赤らんたんに灯を入れて 第二夜 前編

今、貴方には逢いたい人はいますか?

ある時間にある事をすれば、今はもう
逢いたくても逢えない貴方の大切だった
人と話す事が出来る不思議なキャンプ場

" 赤らんたんキャンプ場 " 

今宵の物語は………

「結衣、今日の赤らんたんのお客様は
20歳の男性3人組だよ。今流行りの
バイクでのツーリングキャンプだそう」
このキャンプ場を経営管理している
明神希衣が孫娘の明神結衣に話しかける。
「えっ〜ツーリングキャンプなんて言葉を
知ってるなんて、おばあちゃん、意外!」
事務所の外で薪の準備をしている結衣は
驚いた表情を見せている。
「バイクで来るお客様もいるんだよ、
それくらいは分かるとも。
そんな事より、ほら、もうすぐお見えだよ」

明神家の女性は巫女体質の家系のせいなの
かも知れないが、チェックインの時間が
決まっていないお客様の来場くらいは
簡単に予知出来る。

希衣ばあちゃんの言う通り、ほどなくして
バイクの音が聞こえてくる。
「あの、予約を入れた杉本ですけど」
大学生と、社会人と思われる組み合わせの
3人組がカウンターにやってきた。
「杉本様、松田様、平石様の3名様ですね。
お待ちしていました。赤らんたんサイトの
ご予約という事で。では、結衣お願い」
「はい、どうぞこちらに」
結衣の案内に3人はついて行く。

「杉、本当なのか?単なる噂話じゃね?」
大工の松田が杉本に聞いている。
「そうだよ、なぁマッタ!有り得ねぇだろ」
父親と同じ郵便局員となった平石が言う。
「マッタもモモもちょっと待てって!
俺の通ってる大学の女の子達が話してるのを
横で聞いてな、それでググったら、母親を
亡くした父と娘さんの事が出てたんだ。
えっ?そう、Instagramに。
半信半疑だけど、もしヒデオに逢えたらと
思って、だから予約を入れたんだわ。
お前ら、ヒデオに逢いたくないのか?」
大学生の杉本は少しだけムッとしながら、
自分自身も信じ切れてない事を感じた。

「着きましたよ。皆様お疲れ様でした。
こちらのサイトをご利用下さい。では…

あぁそうですね。忘れるところでした。
あの噂話を確かめたければ、
夜8時25分ちょうど、あそこにある
赤ランタンに灯を入れて下さい。
そうすれば分かると思います。
時間は厳守ですので、くれぐれもご注意を」
そう言って結衣は帰っていった。

「あの話は本当の様だな。ともかく時間が
来るのを待とう。まず薪とメシの準備だな」

杉本、松田、平石、そして英雄。
4人は小学生の頃からの幼馴染みで、
何をするのもずっと一緒だった。
土曜の夜が大好きで、日曜の夕方になると
憂鬱になった小学校時代。
将来の事など遙か銀河の先の様に感じられ
好きな娘の名前を言い、笑った中学校時代。
杉本だけは別の高校だったが、授業が
終わればツルんでいた、本当のツレ。
そんな楽しい関係がずっと続くもんだと
思っていた。

その矢先…

英雄ことヒデオは呆気なく亡くなった。
本当に呆気なくだった。

酔っ払い運転の車がカーブを曲がり
切れず、反対車線にはみ出した事による
正面衝突だった。

釣りが好きだったヒデオはその日、
一人で七曲峠を過ぎた所にある渓流に
釣りに行き、その帰りの事故だった。
七曲峠はその名の通りに、いくつもの
コーナーがあるスネークラインの道路で、
一時は走り屋達がこぞって集まった。
現在はアスファルトが加工され走り辛い。

               つづく

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