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赤らんたんに灯を入れて    anothr story

私は遠い遠い昔に生まれました。
場所は英国、ウェールズ地方。
この辺り一帯を統治している貴族、
ウィンチェスター侯爵のそれはそれは大きな
お城の中でした。

私が生まれたきっかけは、侯爵に二人目の
女の子が誕生した事によるものでした。
その子は " セーラ " と名付けられました。
古くからウェールズでは子供が生まれると、
我が子にランタンをプレゼントする風習が
ありました。
未来を明るく見通せるようにとの願いが
込められているそうです。
そこで侯爵は街一番の職人に赤いランタンを
作らせました。
そして出来上がったのが私です。

物心がついてからのセーラはいつも私の事を
ぬいぐるみの人形のように傍に置いて大切に
していました。

父親のウィンチェスター侯爵は毎日のように
「セーラ、危ないからランタンに火を入れる
事だけは絶対に駄目だよ!」
ときつく言われていました。

ある日の事でした。
セーラは好奇心からランタンを灯そうとした
ところ、始めて擦るマッチに驚いてその火が
ドレスに燃え移りました。
あっという間に炎は大きくなり、セーラは
大声で助けを呼びました。
いち早く駆け付けた姉のメアリーの機転で、
シーツをセーラに被せ火は消しましたが、
かなりの火傷です。
父親や使用人の大人達もやってきました。
ある人は焦げたドレスを脱がせ、
ある人は濡れたタオルで身体を冷やし、
ある人はお医者さんを呼びに出掛けました。
しかし当時の事です。
直ぐお医者さんが来られる訳がありません。

ようやくお医者さんがやってきたようです。
しかし悲しいことに少しばかり遅かった様で
夜8時25分、セーラは息を引き取りました。

わずか8年の人生でした。

葬儀も終わりウィンチェスター家にも
落ち着きが戻り始めた頃です。
メアリーが
「セーラ、貴方に逢いたいわ!でも無理なの
よね。代わりに貴方が見たかった灯りを私が
見せてあげるわ」
そう言ってランタンに火をいれました。
奇しくも亡くなった時間 " 8時25分 " です。
すると目映い光の中にセーラの姿が……
「セーラ!」
「お姉ちゃん!」
二人は逢う事ができたのです。
それからというもの、二人は何度となく
逢う事がありました。
その事を父親に話すとまるで信用もしては
くれなく、逆に気味悪がり私を手放して
しまいました。

それからの私はあちこちの家に貰われて
行きました。
何十年かの旅ののち、ある外交官の家に
貰われました。その方が日本にある
イギリス大使館に赴任するにあたって
一緒にやってきたのです。

何代目かの大使の方が占い師を呼んで
見てもらった報酬を聞いたところ、
「あの赤いランタンを頂けますか?」
と、巫女の明神志津衣が私を指名しました。
部屋に入った時から私の " 気 " を感じていた
そうです。

こうやって私は明神家の一員となりました。
逢いたくても逢えない人達への少しでも
手助けが出来ればと思い作ったキャンプ場。

" 赤らんたんキャンプ場 "

たった1時間だけど逢いたい人に逢える
不思議な空間。
希衣ばあちゃんと結衣ちゃんと私と
セーラの力を合わせて起こす不思議な体験。

今、貴方には逢いたい人がいますか?
ものすごく逢いたくはないですか?

another story (完)

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