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赤らんたんに灯を入れて第五夜 前編

今、貴方には逢いたい人がいますか?

ある時間にある事をすれば、今はもう
逢いたくても逢えない貴方の大切だった
人と話す事が出来る不思議なキャンプ場。

" 赤らんたんキャンプ場 " 
今宵の物語は………

「希衣おばあちゃん、今日の予約は?」
孫娘の結衣が、慣れない手つきでパソコンと
格闘している祖母である希衣の背中越しから
画面を覗き込み聞いている。
「もちろん入っているよ。女性3人組だね。
この方達も初心者の様だから、セッティング
お願いね!」
「うん、分かったわ!いつも通りね!」

XX駅からオレンジ色のローカルバスに乗り
山道を45分程揺られて3人はそこに着いた。
[赤らんたんキャンプ場前]停留所。
「ふぅ~、やっと着いたわね!」
グループの中で1番背の高い戸田今日子が
伸びをしながら呟いている。
「ほんと、座りっぱなしでお尻が痛いよ!」
「4回乗り換え?そりゃ痛くもなるわ!」
藤田由美子と杉浦晶子が応じる。

「あの、予約してます戸田ですが…」
「いらっしゃいませ、戸田様。お待ちして
おりました。細かな事はこの子にお尋ね
下さい。では、結衣お願い」

「セッティングは全て終わっています。
赤らんたんサイトのご予約ですので例の
事が気にかかってらっしゃると思います。
お約束は出来ませんが、必ず忘れないで
" 8時25分 " にあのランタンに灯を入れて
下さい。では大切な方に逢えますように」
そう言って結衣は去って行った。

「さぁ友恵、逢いに来たわよ!」
今日子、晶子と島田友恵の3人は女子高
時代の、今日子と藤田由美子は就職した
デパートでの同期で仲良し4人組だった。
当時はクラブではなくディスコの全盛期。
4人で良く踊りに出掛けていた。
新宿のみならず六本木や赤坂など。
" GoGo-CLUB " 
踊りと1955年生まれに掛けて名付け
られたグループ名。
知り合ってからは飲みに行ったり、
旅行など色々な所に出掛けたりした。
ずっとこの関係は続くと思い込んでいた。

雅江の乳がんが見つかった。

高校卒業後、お互いに進む道は違ったが、
結婚もして出産も経験した。友恵以外は…。
独身だった友恵が乳がんなんて皮肉そのもの
だと今日子は思った。

それから直ぐに友恵の闘病生活が始まった。
抗がん剤治療の為に髪の毛がすっかり抜け、
ニット帽やウィッグで対処していた。
「これじゃオシャレも楽しめないし、
踊ってたらカツラ取れちゃうよォ!」
と、見舞いに行く度に今日子達を笑わせて
いた雅江。その瞳は濡れていた。
CLUBの面々も各々に時間を作ってお見舞いに
出来る限り行く様にしていた。

闘病生活がもうすぐ1年半になろうとした時
何故か今日子に友恵から連絡があった。
皆んなに逢いたいというものだった。
今日子の呼び掛けで由美子、晶子の
CLUB全員でお見舞いに行く事にした。
「あっ、今日ちゃん、由美ちゃん、アッコ!
皆んなで来てくれたんだ!ありがとう」
「元気そうで良かったよ!おばさんは?」
「母は久しぶりに家の片付けをするって、
今帰ってる。また夕方来るけどね」
メンバー全員集まっての久しぶりの談笑で
あーでもないこーでもないだの、あの時は
ああだった!違う違う!あれは友恵のせい
じゃない!だの大いに盛り上がった。

時間が来たようなので今日子が代表して、
「じゃあ友恵、また来るからね!」
と切り出すと、
「えぇ~、もう少し…だめか。でも今日は
楽しかった!ありがとうね。さ………」
「えっ、何?何か言った?」
「ううん、なんでもない!」

その日の夜、友恵は逝ってしまった。


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