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赤らんたんに灯を入れて特別編 後章

小さな赤いランタンだけで出来る明るさとは
とても思えないほど、光のカーテンに辺りが
包み込まれました。

数秒間の沈黙…

そこに佇んでいたのは紛れもなく照英が
逢いたかった人、富貴時辰さんでした。

「照英君、いや、あの頃と同じ様に
" ショウエイ君 " と呼ばせてもらうよ!
久しぶりだね、ショウエイ君!」
「時さん!時さんッ!」
照英ことショウエイ君は時さんに抱きついて
大粒の涙を流しています。
「おいおい、一端の男が何泣いてんだい!」
時辰こと時さんはニガ笑いをしながら
鼻の頭をポリポリとかいてます。
「すみません、つい感情が込み上げてきて。
………もう大丈夫です。何か亡くなった人に
言うのも変だけど、元気そうですね?ww」
「まぁ向こうの世界は歳取らんからな!
でもショウエイ君には色々と世話になった。
特に俺の最期の時にはな。
改めて感謝を言わせてもらおう。
ありがとう」
「何言ってるんですか!明日を見失いかけて
迷路に迷い込んでいたこの僕に、前を向いて
行こう!上を向いて歩こう!って励まして
くれたのは時さんじゃないですか。
御礼を言うのは僕の方ですよ」
「すまん、すまん。相変わらず手厳しいな」
二人の会話は続いていきます。

「時さん、向こうでお父様やお母様、お姉様
には逢えましたか?」
「あぁ、お陰様でな。来るのが早いと親父に
怒られたところだよ。それで弟の登美雄には
逢ってくれたんだろ?死んでから7日毎、
計7回の審判が終わるまで下界の事はまるで
わからなくてな」
「逢いました。てか、時さんの最期の最期に
ギリギリ間に合ったんです。
だから登美雄さんは時さんにお別れが出来た
はずなんです」
「そうだったのか!そうか……そうか……
親父が凄く登美雄の事を気にしててな……」
物憂げな時さんです。

「登美雄さんもお父様の事を気にして
いらっしゃいました。このキャンプ場と
いうか、あの二人と赤いランタンの事が噂話
の域を出ていないと思ったので今日は僕一人
ですが、とても来たがっていました。
待てよ?1回に同時3組までって話だよな…
なら、僕と登美雄さんで時さんとお父様を
呼ぶ事が出来るかも……後で確認します!」

希衣ばあちゃんは離れた場所にいましたが、
持ち前の巫女体質で、薄々こういう流れに
なるだろうと気配がしていました。
「私と結衣で二人ぐらいどうとでもなるわ」
「私も精一杯サポートする!」
結衣ちゃんの頼もしい返事です。

そろそろお別れの時間になりました。
「ショウエイ君、今日はありがとうな!」
「こちらこそ時さん。ずっと逢いたいと
思ってました。次は登美雄さんと二人で」
「あぁ、それまでしばらくのお別れだな。
おっそろそろ時間か?じゃあショウエイ君
またな!」

またしても明るい光が二人を包み込み
辺り一面昼間のようです。
その光の中に消えていく時辰に向かって
ショウエイ君は叫びます。
「時さ〜ん!僕、医者になれたよォ!」
振り返った時辰は
「知ってる。全部上から見てた。
頑張ったな!さすが俺の主治医だ!」
そう微笑んで消えていきました。

後日、希衣ばあちゃんと結衣のところへ
一通の手紙が届きました。
差出人はあの新井照英君からです。
内容は先日の御礼と、照英と時辰、二人の
経緯(いきさつ)が綿々と書かれていました。
人との繋がり、絆、縁、糸。
そんな目に見えないものが本当は大切な
世界に住んでいる私達。
「富貴時辰と新井照英、二人の物語を皆に
聞いてもらう事にするかの、結衣」
「うん!」

貴方は出逢えるべき人に逢えてますか?

特別編 (完)

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