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赤らんたんに灯を入れて特別編 前章

今、貴方には逢いたい人がいますか?

ある時間に、ある事をすれば
今はもう逢いたくても逢えない貴方の大切な
人と話が出来るという不思議な不思議な
" 赤ランタン " を持って
明神希衣ばあちゃんと孫の結衣、
二人と一つの旅も始まってからもう半年が
過ぎようとしていました。

その間、あちこちのキャンプ場の一区画を
借りて、懐かしく時には切なく哀しい対話の
場を提供してきたのです。

様々な人達との出会いがありました。
ルール違反ではありますが、臓器移植のため
提供した男の子とされた側の女の子、双方の
ご両親が揃って逢いに来られたり(もちろん
お互いに誰かは分かっていませんが…)、
家族旅行の旅先で事故に遭い、一人残された
小学生の男の子と訪れた伯母もいました。

「おばあちゃん、旅を始めてもうすぐ半年。
疲れてない?ゴメン、私の我儘で旅暮らしに
なっちゃって…」
「気にする事はないさ。結衣の頑固さは
私譲りだからね!」
「結構、沢山の人や色んな事情のサポートを
してきたけど、一番に不思議というか、
どういった関係だったのか、分からなかった
人がいるのよ。おばあちゃん知ってる?」
結衣は教えて貰えるものとは思ってもいなく
軽い気持ちで希衣ばあちゃんに尋ねました。

「またお前は…お客様の詮索は駄目だろうと
言っただろ。しかし確かに何か訳有りそうな
感じじゃったなぁ。あの富士山の麓にある
Aキャンプ場で逢った好青年の事じゃろ?」
「うん、そうそう!」

「あの、" 赤らんたんに灯を入れて " って
いうブログ見まして予約をした新井と言い
ますが、大事な人と再び話が出来る所って
ここでいいんでしょうか?」

背の高い、いかにも " 好青年 " のハンコを
押したくなるような若者が立っていた。

「はい、新井……しょ?」
「照英、てるひで、新井照英です」
青年は " また何時もの事だな " と心の中で
呟きながらニガ笑いを浮かべていました。
「し、失礼しました。」
結衣はドギマギしています。
「詳しい事は私の方から。今日は幸いにも
新井様お一人です。なのでこちらのサイトを
お使い下さい。キャンプ経験者の様ですね。
ここに " 赤ランタン " を置いていきますので
夜の8時25分、8時25分ちょうどに
灯を入れて下さい。時間厳守です。
そうすれば御希望が叶うと思います。
但し、その時間は1時間です。
では何かありましたら、ここに連絡を…」
二人はそう言って離れて行きました。

新井照英が逢いたい人物。
それは家族でも親類縁者でもありません
でした。照英が過ごした24年間の人生の中において
ホンの一瞬の出来事かも知れない時間に
深く深く関わった人

" 富貴時辰 "

「時さん、やっと逢いに来る事が出来たよ!
あれから色んな事が一杯あって、何から
話せば良いのか分からないけど、言われてる
噂が本当なのか凄くワクワクしてる。

時さん、時さんは向こうの世界では元気で
やってるかな?
たった2ヵ月程の付き合いだったけど、
不思議だね、逢いたくて仕方ないなんて。
多分こういうのって

" 縁(えにし) "

って言うんだろうね。
あっそろそろ時間だね」

照英は焚き火から小枝を取り、赤ランタンを
引き寄せ灯を入れた。

8時25分、辺りはランタンとは思えない
明るさに包まれました。

続く

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