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赤らんたんに灯を入れて第二夜 後篇


ヒデオのお姉さんから報せを受けた杉本達は
急いで病院に駆けつけた。

白い布を掛けられた物言わぬヒデオが
そこに横たわっていた。

杉本達は、まだ信じられない顔をしている。
松田は泣いているのか、笑っているのか、
複雑な表情である。
杉本は今までのヒデオとの思い出が血流と
なって全身の細胞の中にある " 記憶 " の
欠片を伴い脳裡に流れ込んでくる気がした。

4月生まれの為に仲間内で1番最初に
免許を取り、嬉しそうにバイクを
見せに来たヒデオ。
皆で夜釣りに行った帰り、調子に乗って
飲めない酒を飲んで酔っ払い、吐きながら
バイクを運転してたヒデオ。
色んなヒデオが蘇ってくる。
あんな時のヒデオ。
こんな時のヒデオ。

あれから2年、杉本達は成人式を迎えた。
しかしヒデオの時計の針は止まったまま。
杉本達はお別れも言えぬままだった。
それを解消したくての今夜の予約である。

「おい、そろそろだぞ!」
平石智彦、モモが言う。
「あぁ、いいか?点けるぞ!」
杉本も手が震えている。
「待て待て、5秒早いって!」
松田将実、通称マッタが止めに入る。
5…4…3…2…1

一瞬辺り一面、凄い明るさに包まれて
目を背けた3人の前にヒデオがいる。
何時も一緒にツルんでいた時のヒデオが。

「ヒデオ〜!」

3人は知らぬ間に叫んでいた。

「杉、マッタ、モモちゃん、逢えたね!
皆んな大人っぽくなってんな!
何か照れくさいなぁ。一人だけ高校生だし」
「何言ってんだよ、関係ないよ、そんなの」
「そうだよ!ところで触れるんだよな?」
「大丈夫、平気だよ!ハグでもしようか?」
「よせやい!ノーサンキューですわ!」

そう言って4人はあの頃のように笑い転げ、
あの頃のように話し続けた。

「俺達も、無論ヒデオもだとは思うけど、
お互いに相手の事をどう思っていたのか、
それが知りたかったのと、お前はもう、
向こうの世界に行ったんだ。その事実は
覆らん。なら、本当に改めて本人にキチンと
別れの挨拶をしたい。それが3人の望みだ」
杉本が代表してヒデオに話した。
「杉、お前が小学5年の時に転校してきて、
俺ン家のすぐそばに引っ越して、家の前で
親父さんとキャッチボールしてたお前に声を
かけてからもう何年だ?
俺はお前達と出逢えて良かったと思ってる。
杉、モモちゃん、マッタ、友達でいてくれて
ありがとうな!」
「何言ってんだよ!転校したてで心細かった
俺に声をかけてくれた時は嬉しくて、親父は
" 良かったな、もう友達ができて " って
俺より喜んでたぞ!礼を言うのは俺の方だ」
「友達になるのに資格なんてないだろ!」
「そうさ、俺達はなるべくしてなったんだ」
「ありがとう、皆んな」

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい
もうお別れする時になりました。
「なぁヒデオ、また逢えるよな?」
「まだあっちの世界のルールをよく理解
出来てないけど、たぶん…大丈夫だと思う。
あっ、もう行かなきゃ!
みんな、今日はありがとう!元気でな!」
そう言いながら明るい光に包まれながら
ヒデオは消えていった。

今宵もまた " 赤らんたんキャンプ場 " で
貴重な体験をした人達がいた。
そこは不思議の空間。

今、貴方には逢いたい人がいますか?

ヒデオの3回目の命日に3人は久々に
七曲峠に来てみた。すると、どこかで
3人を呼ぶヒデオの声が聞こえた。


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