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ホントごめんね、お前誰?

確かに私は、このご時世じゃ稀に見るくらい運の悪い人間なんだと思う。

人様に言えないことは数知れず、大学浪人のために貯めた費用を母親にパクられるくらいは序の口で、まだ赤いランドセルを背負っていた頃から他人の非まで背負って今日ここまでやってきた。どうりで肩が凝ること、身長も伸びないわけです。

が、別にそれ自体は超絶どうだっていい。
だってどうでもよくない?私悪くないし。もうなっちゃったことだし。しょうがないじゃんね。私に苦労のにおいが染みついてしまったことも、身長が152cmしかないことも、まあ、しょうがない。今が楽しければ、もうそれでいいかなって。


私が許せないのは、それに付属する、別の問題だ。

男の人は、不幸な女の子が好きらしい。

会話の流れでぽろりとこぼれるかわいそうのかけらをすかさず拾ってつまみ上げ、私の目の前までご丁寧に持って、来る。これどういうこと?どうしたの?聞こうか?と。

それまでLINEマンガの続きが頭の半分くらいを占めていただろうくせに、だからなのか、ついに自分がマンガの中のヒーローになれるとでも思ったのか、鼻息荒く前のめりになって根掘り葉掘り話を聞き出すのだ。
お前は聞いて楽しいモグラのぬいぐるみかもしれないけど、私は話して楽しいブタのぬいぐるみではない。超話したくない。別にお前と全然仲良くないし。てかちょっとしゃべるようになっただけで何その勢い?私二塁ベースじゃないんですけど?

しかも、頼んでもいないのに人間分析までし出すからタチが悪い。いわゆるカテゴライズというやつで、うーん君は素直で頑張り屋さんだから〜といった調子で、朝のニュースの星座占いのようなことばかりを延々としゃべる。
頑張り過ぎると疲れちゃうってそれウンコ行ったらケツを拭くと同義じゃない?違うか?

皮肉なことに、私にとっては迷惑極まりない行動のひとつひとつは彼らの善意から来ている。本気で、この目の前にいる一見幸せそうな、でも実は俺だけしか知らない不幸を抱えたこの女の子を救いたいと、助けたいと心の底から思っている。

だから、「実のお父さんはパプアニューギニアの雪山で遭難して死んだし、再婚したお父さんはドイツでタンバリンの修行に出ている。お母さんはラッパーで日々バイブスをいかに上げていくかに必死で朝起きられないし、妹は福山雅治ガチ恋勢で二推しは中島健人、末の弟はめちゃくちゃかわいい」などと一生懸命私がお茶目なはぐらかし方をしても、それはヒーロー様の善意に対してあまりにも不誠実過ぎると叱られるだけ。そこでは不幸な女の子がどんな気持ちでいるかなどはハナからどうだって良く、ヒーロー様をより輝かせる演出ばかりが大事なのである。

その上、「どんな不幸にもへこたれず、明るく素直で真面目でひたむき」という彼らの分析によって出来上がった私の像から現実の私が一歩反れた途端、ヒーロー様は烈火の如く怒り出す。
例えば授業をサボって寝ていただとか、母はモンゴルでキャラバンライフを満喫しているだとかいうくだらない嘘をついたこと、タバコを吸い始めただとか実は長年付き合っていた男がいたということに癇癪を起こし、存分に当たり散らした後に失望し、去っていく。
彼らの中で渦巻くのは、せっかく差し出してやった救いの手をバカにして振り払われた怒りでしかなく、決して心を開いてもらえなかった己の無力さから来る悲しみではない。完全に当たり屋。てか中国の当たり屋もドン引きじゃん。

私もバカな女であるから、どうしてもそのたとえ一瞬だったとしても希望の光に照らされたことに救われた気になってしまう。

でも、それは大きな勘違いだ。
彼らが作り上げた「一見幸せそうな、でも実は不幸な女の子がヒーローの手によって救われ幸せになる物語」に組み込まれただけであって、私は「一見幸せそうな、でも実は不幸な女の子」でも、「どんな不幸にもへこたれず、明るく素直で真面目でひたむきな女の子」でもない。

確かに、私は自分のことをこのご時世稀に見るくらい運の悪い人間だと思っている。でも決して自分が惨めで不幸でかわいそうな女の子だと思ったことはない。
ただ、ヒーローになりたい彼らが、自分をより輝かせるシナリオ作りのために私を惨めで不幸でかわいそうにしているだけの話なのだ。

人間というのは多面体だと思う。
色々な面があって、相手には見える面見えない面がある。
その上その面ひとつひとつも、見ている相手によって受け取り方はそれぞれ。
だから、私という人に対して抱く像は無数にあるんでしょう!
でも、私はそのイメージに沿おうという気は全くない。

私はフカフカのベッドに入ったら、まつ毛美容液をたっぷり塗った目をつぶってさっさと寝てしまいたい。そんな途方もないリクエストにお応えすることばかりを考えて眠れぬ夜を過ごすなんて絶対にイヤ。バカらしい。寝たい。

救いたいと、助けたいと思った気持ちはとってもうれしい。
私はそのことについて否定はしない。けど許容もしていない。
どうしてもと言うのなら、すべてを聞かせても全然構わない。でもきっとその不幸の重みに耐え切れなくて逃げ出すのは他でもないお前なの。
そう、善意とは、知らないということ。

敵前逃亡するヒーローを誰が見たいの?

これは、ヒーローに対する優しさでもあるし、私がヒーローに救われずに逃げられてしまうことによって本当に惨めで不幸でかわいそうな女の子にならないための嘘でもある。

きっと私のことは誰も救えないし、そもそも救えるものではないんだと思う。しょうがないことだって言ってるでしょ。

これ以上傷つくのはうんざりなんです。
なにせバカな女ですから、毎回ヒーローの登場に喜び、そして傷つく。あなたの手をはたき落とす時、私の手も心もちょっぴり痛い。たとえあなたがヒーローだと洒落込んできても、私にとっては怪人ホニャララでしかない。きっとあなたはとってもとっても優しいひとなんだと思う、でも私は自分に傷ひとつつけたくない。

だから言わせてほしい。
優しくしてくれてどうもありがとう、とってもとってもうれしい!
でも、


ホントごめんね、お前誰?


#エッセイ #読み物


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