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「全国の花屋の防災意識が変わるきっかけを作れたら。」創業130年、ゴトウフローリストが緊急時避難誘導員資格を導入した理由。

2022年に創業130年を迎えた株式会社ゴトウ花店(ゴトウフローリスト)。「最高の美しさで世界に花を」という理念のもと、明治25年の創業以来業界を牽引しています。同社では2022年8月に緊急時避難誘導員の資格を取得し、各店舗に同資格の取得者がいる体制を構築しました。なぜ防災体制の強化に至ったのか、同社の専務取締役である後藤 尚太郎氏に、資格導入の背景や花業界における今後の展望などのお話を伺いました。緊急時避難誘導員資格を運営する(※1)BOSAI SYSTEM社代表、新妻 健将との対談形式でお届けします。
※1 一般社団法人 日本防災教育振興中央会が設立、BOSAI SYSTEM株式会社が普及運営

創業130年を迎え、これから大切になるのは他業種とのコラボレーション

ー今年で創業130年を迎えるということで、改めて現在の事業について伺わせてください。

後藤:「最高の美しさで世界に花を」という理念のもと、都内で5店舗花屋を経営しております。オンラインでも購入できる他、結婚式を中心とした冠婚葬祭のシーンでもご利用いただいています。日本全国には2万5千店以上の花屋があると言われていますが、その中でも弊社は先にお伝えした理念を大切にしているので、最高品質のお花をご提供していることや、ヒルトン東京、ザ・キャピトルホテル東急・帝国ホテル東京など高級ホテルに出店させていただいていることも特徴です。

新妻:後藤さんは創業から5代目に当たるということですが、これまではどのようなご経歴だったのでしょう。

後藤:大学卒業後、新卒で株式会社ユニクロに入社し、店舗の責任者や親会社の株式会社ファストリテーリングにて物流開発の業務に従事した後、3年前に弊社に参画し、専務として経営企画や一部店舗のマネジメントなどを行っています。

新妻:今31歳とのことで、老舗企業からこれまでにない新しい取り組みを進めていかれるかと思います。もしよろしければ現在注力しているテーマなどについて教えてください。

後藤:今一つ目標として掲げているのは、まず創業150年まで会社を続けることです。その上で大事になるのが、他業種とのコラボレーションです。前提として、日常的に花を購入される方の率は年々減っています。そんな中で私たちとしては、どのように花と接してもらう頻度を増やすかが重要で、従来とは異なるアプローチを、他の業界とのコラボレーションで考えていきたいと思っています。

少し切り口は異なりますが、今回資格取得を通じてBOSAI SYSTEMさんとご一緒させていただくのも、防災という全く異なる分野の必要性を痛感し、協働したいと考えたことがきっかけです。

コロナ禍だからこそ、店舗には進化が求められる

ー後藤さんご自身に加え、各店舗の店長の方が皆さん緊急時避難誘導員の資格を取得されたと伺いました。どのような背景があったのでしょうか。

後藤:一番の理由は、これまで防災について充分な備えができていなかったという危機感を抱いたことです。弊社の各店舗の責任者は防火・防災管理者の資格を持っているのですが、新妻さんとお会いしてお話をする中で、例えば大地震が起きた際にどう避難するのかという観点について、従来の知識や資格では対応し切れていない可能性があるということに気づいたんです。私たちの場合だと、都心の大型店舗にスタッフが10名ほどいる中で、有事が発生した際に適切な避難誘導をできる人間がいないのは会社として相当まずいと感じて、資格取得に至りました。私自身、会社を預かる経営者として、知識不足であることに危機感を抱き、個人としても資格を取得しました。

特に花屋の場合、商品の特性上ガラスを多く扱います。かつ、花瓶には水が入っているので揺れて落ちてしまうと、床がガラスや水で溢れてしまう。地震の被害を直に受けてしまう業種なんです。そういった環境ながら、まだ同じ業界で資格を取り入れている会社がないということを伺い、長くやっているうちが率先して手をあげることで、業界全体で防災意識を改める流れが作れないかと思い、導入させていただきました。

新妻:私たちとしてはこの資格を通じて、防災のインフラを日本全国に整備し、災害時のリスク分散をしたいと考えています。だからこそ、御社のように日本全国で2.5万店舗を超える業界のリーダー企業に導入、発信いただけることは本当にありがたいです。

後藤:もう一つの観点としては、花屋の業界が変化していく中で、店舗は付加価値を高めていく必要があると考えており、その方針と一致したのも一つの理由です。

例えば、コロナ禍で、ブライダル需要や店舗の来店数は落ちた反面、オンラインの購入は伸びています。特に母の日には会えないので花を贈るという方が増え、花が足りないという事態も起きたほどです。最近ではサブスクリプション型で花を届けるサービスなども増えています。

そのようにいつでもどこでもオンラインで購入できる時代において、店舗に求められるのは付加価値の向上です。花という分野において店舗とECで大きく異なるのは、ECが出来上がった既製品を買うのに対し、店舗では組み合わせが可能です。来店いただいたお客様が好きな色味や種類、その時の気分などをお伝えいただき、季節ごとに店舗で扱っている花をデザイナーが組み合わせて提案する完全なオーダーメイドの商品で、お客様によってはデザイナーを指名して来店いただく方もいらっしゃいます。その他にも、花を買うという体験自体に価値が付随できると考えており、弊社の六本木本店では花束やアレンジメントの制作を間近で見れたり、コーヒーサービスやピアノの生演奏があったり、オフラインだからこそ提供できる価値を強化しています。

店舗の付加価値を高めることが今後重要になるからこそ、来店したお客様に対して、どんな状況でも対応サポートできる体制を築くことは、今後の業界が向かっていくべき方向性とも一致しているのではないかと考えています。

新妻:確かに、コロナ禍で対面で会うオフラインの価値が上がっていることを感じます。反面、防災の分野でいうと避難時に密集してしまうことなど、新たな課題も生まれています。デジタル化が進んでいく時代に、店舗ビジネス自体が進化していくことのお手伝いができればと思います。

老舗企業が持つ地域貢献の価値観が防災に生きる

ー実際に資格の講義を受けてみて、どのように感じられましたでしょうか。

後藤:知らないことばかりで、「え、そうだったの」という感覚でした。特に勉強になったのは心理的な面で、大災害が起こると人間はこう思ってしまうというような心理的特性について説明されていて、知っていることと知らないことの差はすごく大きいのだろうなと思いながら勉強させていただきました。

実際に私と各店舗の責任者が資格を取得し、何か有事があった際はまず責任者がお客様とスタッフを導けるようにする。さらに店長が学んだ内容をスタッフに落とし込み、結果的には有事の際に全員が自らの安全とお客様の安全を考えて行動できるように浸透していければと考えています。

新妻:後藤さんとお話する中で、老舗企業として130年続いているのは、自社の利益だけを追求するのではなく、地域や人とのつながりを大切にしている、日本企業の良いところを体現しているからではないかと感じました。防災についてはそういった考え方や価値観がまさに重要なので、ぜひ一緒に取り組みたいと、非常に共感しています。伝統を持った上で、従来にない新しいチャレンジに取り組まれる後藤さんのような同世代の経営者にお会いできたことは、個人的にもとても嬉しいです。

後藤:確かに、例えば私たちの場合、花の産地さんが災害に苦しむケースが最近特に増えています。自分たちが今影響を受けていないから関係ないというのではなく、本当に他人事ではないなという感覚があるので、地域やコミュニティ全体でできることに取り組んでいきたいです。

プロフィール
株式会社ゴトウ花店専務取締役
後藤 尚太郎
慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社ユニクロ入社。店舗責任者として店舗運営に従事。株式会社ファーストリテイリングへ転籍、GSCM部にて物流開発業務に従事。2019年5月、家業である、株式会社ゴトウ花店へ入社。専務取締役就任。株式会社ゴトウビルディング専務取締役。
https://www.gotohanaten.co.jp/


BOSAI SYSTEM株式会社代表取締役 
新妻 健将
青山学院大学経営学部卒業後、みずほ証券株式会社本店営業部入社。新規開拓営業、コンサルティング営業に従事。その後、運送会社の起業で独立し、複数の事業立ち上げを経験。2021年4月「救えるはずの命を救う」ことを目的に、BOSAI SYSTEM株式会社設立。代表取締役就任。株式会社EVA取締役。一般社団法人EV100ラストワンマイルを実現する会理事。国連NGO JACE上席研究員
https://bosai-system.co.jp/



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