毒親の娘のそのまた娘の話

数ヶ月前に祖父が亡くなった。
それ自体は私の中で整理がついている。本来なら死ぬはずのなかった状況であったことも、もし自分が気づけていればという後悔も、一生背負って生きていくのだと心の中で落とし所をつけた。

だが私は残された祖母とその娘である母の関係性を取り持つことには整理が出来ていない。

私の祖母は所謂毒親であった。母から話を聞く限り、それはそれは壮絶であった。母の気持ちを理解してあげたい、同情してあげたい。私の母は彼女一人であるからそう思った。だが、そう思いたいのだが、彼女の語る母と私の知る祖母との齟齬が目立ってしまい、上手くいかなくなってしまう。

私にとって祖母はとてもいい祖母であった。優しくて穏やかで、母の語るヒステリックな女性だとはとても思えない程に。

母は語る。祖母がマルチ商法で有名な商品を買っていたこと、ヒステリックであったこと、一度も家族揃って出かけたことがないこと。
そのどれもが私には受け入れ難く、しかし母は理解して欲しくて堪らない様子で祖母のことを話すのだ。

きっとこれを読めば母の気持ちを理解してあげればいいのに、子供だった私には綺麗な所しか見えていないのだ、と感じるだろう。実際に私もそう思う。

だが違うのだ。現実はずっとずっと難しい。私のことをこの数ヶ月苦しめてきた事実が母だけを信じるという考えの邪魔をする。

私は「祖父母と母の関係が悪かった」と勘違いしていた。だが祖父が亡くなって知らされた事実は、「祖母と母の関係が悪く、母と祖父の関係は良好であった」というものであった。
それを知った時ガツンと頭を殴られたような衝撃があった。頭の中が真っ白になり、祖父が亡くなった悲しみよりも後悔だけが頭に残り続けた。あまりにその事実が苦しく、痛く、そして後悔しか生まないものだから、私は最期の祖父に触れることが出来なかった。触れたのは燃えたあとの骨を箸で摘んだ時だけである。生前私よりも小さかった祖父の骨は、思いの外重たかった。

祖父は私をとても可愛がってくれていた。実際に私も祖父が大好きだった。だからこそ私は祖父に悲しい顔をさせないため、つく必要のない嘘を10年以上にわたってつき続けた。
母は忙しくて祖父母に会いに来れないこと、祖母に会わせたくない母に逆らって会いに来ていることをずっと偽り続けてきた。
母の機嫌が悪くなることを知っている私は、嫌々会いに行くような素振りで祖父に会いに行き、祖父の前では両親の顔を立てるように嘘をつき、嫌々行ったものだから私は早々に祖父の家を後にする。これを10年以上にわたって続けた。今考えればただの道化だ。
その事実を受け入れるには私の精神はあまりにも幼く、そして脆い。その自覚のある私は現在この事実にぎゅっと蓋をして奥底に眠らせている。

私は両親を信じる非常にいい子であった。だがこの事実が、この祖父と母との関係性の食い違いが、私の母を信じたいという想いの邪魔をする。ぎゅっと蓋をしているのに、汚臭のように漏れ出してくる。

その度に眠れなくなり、後悔が目の前を覆い隠し何一つ見えなくなるのだ。

この食い違いは祖父が亡くなった事でもう二度と解消されることは無い。勘違いしていたよ、そう笑うことで母の中では無かったことになってしまった。

つらかったよ、苦しかったよと母の前でも祖父の亡骸の前でも涙を流さなかった私は、これからどうやって母との関係を築いていけばいいのだろう。

そう問うておきながら答えはわかりきっている。今までと同じように母と祖母の前でいい顔をし続けることだ。幸いにもどうしても生きたいと感じることは今までになかった。ただダラダラと命が続いているだけの私が、懸命に生きる母の邪魔をしてはいけない。母は私が死んでしまうと後を追うだろうから。
たったこれだけで救われる人がいるのなら最善の選択肢であるはずだ。

それでもこんな、自分をまるで悲劇のヒロインのように書いている文章を残し、あろうことか他者に読んで欲しいかのようにタグ付けまでしているのは、もしかしたら母を少しは恨んでいるからなのかもしれない。

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