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今週の全米アルバムチャート事情 #248- 2024/8/10付

パリオリンピック今週はまだ終わってませんが、先週末に松山英樹選手の男子ゴルフでの見事な銅メダル獲得と、金メダル獲得を至上目的にしていた男子バレーチームが、何と準々決勝でイタリアにあと1点が取れず逆転負け、メダルにすら届かないという悲喜交々の状況で、相変わらず毎日ローラーコースターのような日々。猛暑ぶりも相変わらずですがお互いに体調気を付けて音楽にスポーツ観戦に暑い夏を乗り切りましょう。

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

今週の全米アルバムチャート、8月10日付のBillboard 200は先週予想したように強力な新譜もない中、上位の既存チャートインアルバムのポイント目減り留め合戦の結果、やはりテイラーの『The Tortured Poets Department』がわずか3%減の71,000ポイント(うち実売12,000枚)という今年6番目に低いポイントで首位に復活、通算13週目の1位を記録してます。

こういう風に強力新譜がない週にポイント減を最小限にして、6〜7万ポイントでもしぶとく首位を確保する、というのは今年モーガン野郎の『One Thing At A Time』が得意にしていて、1/20付チャートで記録した今年最低ポイントの61,000ポイントでの1位を含め、3回もこのパターンで1位になってますね。良くも悪くもなかなかポイントを減らさない大ヒットアルバムの証明ということですかね。まあ今更証明の必要のないほどの大ヒットアルバムですが(笑)。それにしてももう累計優に300万枚は売り切ってるはずなのになかなかRIAAのプラチナ認定、出ませんね。あれ、いつもどういうタイミングで認定されるのか謎です。いずれにしてもこれでBillboard 200のトータル1位週数を82週に伸ばして、ソロアーティスト最多1位週数を更新中のテイラー(ソロ2位は67週のエルヴィス)、あともう何週くらい首位を重ねるのでしょうか。

"The Rise And Fall Of A Midwest Princess" by Chappell Roan

さて今週のトップ10はかなり地味です。初登場ゼロ。唯一その中で気を吐いているのはもはや2024年音楽シーンで彗星のように現れたグラムポップ・クイーンとして最大の注目の的となっているチャペル・ローンの『The Rise And Fall Of A Midwest Princess』。何とここに来て先週8位→4位にアップして、チャートイン19週目にして最高位を更新しています。ポイント的には先週1%減の53,000ポイントなので、このままではこれ以上の上昇は厳しいところですが、実は彼女はシングルの方も好調で「Good Luck, Babe!」が今週Hot 100で10位→8位にアップ、7月に記録したこちらも最高位10位を軽々と更新しています。更に!この曲、ついに8/3付Spotifyデイリー・チャートケンドリック・ラマーNot Like Us」を退けて1位になってますね。となると、この『The Rise〜』に収録されてない「Good Luck, Babe!」が急遽デラックス・バージョンに追加収録されたり、更にリミックス・バージョンをドロップしてそれを追加したりするとぐっとアルバムのストリーミング・ポイントが増えますので、アルバムチャートの方でも強力な新譜のない、今週みたいな7万ポイントくらいで首位が取れる状況にうまく当たるとアルバムナンバーワンも不可能ではない、という状況になってきました。

4月のコーチェラ・フェスティバルのパフォーマンスで一気にその存在感と露出を爆発させて以来、このアルバムの急上昇や「Good Luck, Babe!」以外の「Hot To Go!」(今週26位上昇中)、「Pink Pony Club」(今週42位上昇中)、「Red Wine Supernova」(最高位46位)、「Casual」(今週76位上昇中)、「Feminomenon」(今週86位上昇中)と計6曲が現在Hot 100でヒット中のチャペル、その注目度と人気はどんどん高まるばかり。先週末シカゴで開催されたロラパルーザ・フェスティバルでは彼女のステージに物凄い数のオーディエンスが集まり、関係者曰く「ロラパルーザ史上過去最多のオーディエンス動員ステージではないか」というほどの加熱ぶりなんですね。そしてUKでも今週アルバムチャート7位→4位と躍進中。向こう数週間はこのアルバムとシングルの動向は要ウォッチです。しかしこれだけ英米では社会現象的な人気を集めているのに、日本の洋楽メディアではあまり取り上げられているのが解せないところ。この状況、音楽メディアだったらもっと騒いでいいと思うんですが。

"Y2K!" by Ice Spice

ということでトップ10は初登場ゼロでしたが、圏外11〜100位には今週も7枚とやや多めの初登場なので、ちょっと走り気味に行きます。まず18位にエントリーしてきたのはご存知昨年ピンクパンサレスとの「Boy’s A Liar Pt. 2」が全米3位の大ヒット、テイラー・スウィフトの「Karma」(2位)にフィーチャーされたりと大ブレイクしたアイス・スパイスのデビュー・アルバム『Y2K!』。ということだとトップ10初登場でも全然おかしくないんですが、今年に入ってからのシングル「Think U The Shit (Fart)」も37位止まりと今一つだったことも影響してか、この順位での初登場になってます。

全10曲で23分とえらい短いアルバムで潔い中、トラヴィス・スコットとの「Oh Shhh…」とか、ガンナとの「Bitch I’m Packin’」、更には今UKで大人気のラッパー、セントラル・シーとの「Did It First」など盛り沢山な内容なんですが、全体聴いた印象としては今ひとつパンチに欠ける気がするのが、チャート的にも今一つになってる理由かも知れません。個人的には「Did It First」でセントラル・シーがかなり存在感を発揮してるのが耳についたくらいですねえ。

"Rite Here Rite Now (Soundtrack)" by Ghost

続いて正しい良い子のメタルファンみんな大好き(笑)、リード・ボーカルが死霊のメイクの司教のスタイルで、バンドメンバーが全員「名もなき食屍鬼(ネイムレス・グール)」というスウェーデンのメタルバンド、ゴーストのライブ盤でリーダーのトビアス自ら監督したコンサート映画のサントラ盤『Rite Here Rite Now (Soundtrack)』。昨年の9月のカリフォルニア州イングルウッドのキア・フォーラムでのライブ映像と、ドキュメンタリー映像が組み合わされた映画みたいです。

ここでライブ録音で聴けるのは、彼らがメタルというよりもアリーナ・ロック寄りのサウンドにシフトして全米で大ヒットした前の2作『Prequelle』(2018年3位)と『Impera』(2022年2位)からの曲を中心とした全18曲。特にオープニング「Imperium」から「Kaisarion」への様式美的ハードロックの流れは『Impera』の冒頭そのままで、観客の反応もかなりいいですねえ。このバンド、多分日本のメタルファン大好物だと思うのでこれももっと音楽メディアで取り上げられててもいいんですがあまり見ないですね。でもこれ、ボン・ジョヴィからサバスからジューダス・プリーストあたりまでのファンは絶対好きだと思うなあ。

"Pero No Te Enamores" by Fuerza Regida

その下25位には、今週も入ってきましたリージョナル・メキシカン。そのブームの担い手のバンドの一つ、フエルザ・レジーダ8枚目のアルバム『Pero No Te Enamores(でも恋に落ちないで)』。昨年一連のクロスオーバーヒットの後の前作『Pa Las Baby’s y Belikeada』が14位と、彼らのキャリア最大のヒットアルバムとなった後リリースしたEP『Dolido Pero aNo Arrepentido』が69位と沈んでいたのでこのまま下降線かなあ、と思っていたら今回上位に戻ってきました。

昨年のようにヒット量産は今年はしていませんが、今回のアルバムはただのリージョナル・メキシカンのコリドー音楽、というギターとホーンで叙情的なスタイルからは一線を画していて、メジャー・レイザーをフィーチャーした「Sofia」や「Kylie」なんてハイテンションビートのラテンEDMって感じだし、アフロジャックをフィーチャーした「FVCK」なんて完璧4つ打ちのダンスビート。比較的伝統的コリドーっぽい「Bella」にしてもかなり覚醒したビートの効いた感じで、エレクトロ・リージョナル・メキシカン、ってな感じです。これだったら眠くならずに聴けるかも。クラブとかでも十分使用に耐えそうです。クラブDJの皆さん、どうですか?

"Child Of God" by Forrest Frank

続いて28位にチャートインしてきたのは、フォレスト・フランクのソロ・アルバム『Child Of God』。ン?誰?と思ったあなた、自分もそう思って調べてみたら彼、2020年に一発だけの脱力系ポップヒット「Sunday Best」(19位)を放っていたテキサス出身のポップ・デュオ、サーフェシズの片割れでした。サーフェシズ自体はまだ活動しているようなんですが、どうやらこのタイトルといい、彼自身のウェブサイトで売られているグッズに聖書の一節が書かれていたり、彼自身もインタビューで説明している通り、どうも今回はクリスチャン・ポップ路線でソロをリリースしたようです。彼のソロは2023年『California Cowboy』『A Merry Lofi Christmas』に続く3枚目らしいです。

なかなか情報が少ないのですが、このアルバムで最もエクスポージャーを得ているのが、こちらも若手シンガーソングライターのジェイク(JVKE)とのコラボシングル「Never Get Used To This」。いかにも今っぽいビートの効いたキャッチーなポップ・チューンで、音だけ聴いてる限りはこれがクリスチャン・ポップとは気がつかない感じです。その他、ゴスペル畑では従来から活躍している女性シンガーのトリー・ケリーをフィーチャーした「Miracle Worker」などはスロウで叙情的なバラードだったり、純粋にポップ・アルバムとしても楽しめそうな内容ですね。ちょっと名前覚えておきましょう。

"Made By These Moments" by The Red Clay Strays

そのすぐ下の29位初登場は、アラバマ州モービル出身の5人組カントリー・ロック・バンド、ザ・レッド・クレイ・ストレイズのセカンド・アルバムにして初チャートイン・アルバム『Made By These Moments』。ファースト・アルバム収録のブルージーなロック・バラード・シングル「Wondering Why」が、バンドのライブ映像と共にTikTokでバズったのがきっかけでHot 100にチャートイン(実にチャートインしては落ち、またチャートインしては落ちというのを5回繰り返して最高位71位という渋ーいヒットなんですが)。これでバンドの名前が一気に知れて今回の新譜がこんなに高い順位でチャートインした、という経緯です。

何やらこのあたりの経緯、90年代に突如ブレイクしたブルース・ロック・バンド、ブルース・トラヴェラーを個人的には思い出してしまいましたが、今回のアルバムを聴いてもまったくチャラチャラしたところもなく、男臭い、土臭いカントリー・ブルース・ロックを全面にわたってやってて、なかなかうれしくなるようなバンド。出てきたばかりの頃のレーナードとか、イーグルスのセカンドとか、ああいう感じ。いいなあこういうのがこの2020年代にもヒットするの。しかもSMSでブレイクするっているきっかけが今風なのに音は全然今風じゃない、でもいいという、シニアなアメリカン・ロック・ファンにはとってもお薦めのバンドです。自分ももう少しアルバム聴き込んでみますね。

"Dave’s Picks, Volume 51: Scranton Catholic Youth Center, Scranton, PA, 4/13/71" by Grateful Dead

ちょっと下がって31位にエントリーしてきたのは、毎度お馴染みグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによるライヴ音源集第51弾『Dave’s Picks, Volume 51: Scranton Catholic Youth Center, Scranton, PA, 4/13/71』。今回もたっぷりCD3枚組ですが、タイトルにあるペンシルヴァニア州スクラントンのスクラントン・カソリック・ユース・センターの1971年4月の音源は1枚目と2枚目の途中までで、2枚目後半はセントルイスのキール・オペラハウスでの1970年10月の音源、3枚目はタイトルのスクラントンのライブの前日、1971年4月12日のピッツバーグ・シヴィック・アリーナの音源になってます。
今回もいつも同様25,000枚限定リリースなので完売してたとしてもこれくらいの順位になるでしょうね(実際は実売21,000枚だった模様)。音源的は1970年と71年ですから彼らのピーク期のステージということで例えば代表曲「Casey Jones」は3箇所すべてで演奏されてます。

"Faith Of A Mustard Seed" by Mustard

そして今週最後の100位までの初登場は50位にチャートイン、ラッパーのYGやヒップホップR&Bシンガーのタイ・ダラ・サインといったところの仕事で知られるプロデューサーのマスタード(本名:ディジョン・アイザイア・マクファーレン)5年ぶりのアルバム『Faith Of A Mustard Seed』。ミーゴスとのコラボシングル「Pure Water」(2019年23位)、ロディ・リッチをフィーチャーしたシングル「Ballin’」(2020年11位)と彼最大の2つのヒットを収録した前作『Perfect Ten』(2019)は8位と彼にとってのブレイク作となったんですが、ちょっと間が空きすぎたのか、この間あまり目立った仕事がなかったせいか、はたまた先日のケンドリック・ラマードレイクのビーフ合戦でケンドリック側について「Not Like Us」を一緒にやったのが仇になったのか、この順位に沈んでいます。

今回も大ヒットアルバムだった前作で客演していたメジャーどころが多数参加、クウェイヴォ、フューチャー、ア・ブギー・ウィット・ダ・フーディー、ロディ・リッチといったラッパー陣はお約束として、エラ・メイ、タイ・ダラ・サインらのR&Bシンガー陣も前作に引き続き参加。それに今回は何と言っても存在感を放っているのが先行シングル「Parking Lot」にフィーチャーされたトラヴィス・スコットと、「Mines」と「A Song For Mom」の2曲でいい仕事してトラックの格を上げている御大チャーリー・ウィルソンギャップ・バンド)。ただそういうR&Bシンガーが絡んでないトラックは今一つかなあ、というものも結構あって、音楽メディアの評価も今ひとつのようです。メンツが豪華な割にはワクワクするトラックが少ないというか。うちのヒップホップ・ヘッズの息子にも意見を聴いたら「うーん」と言っとりました(笑)。

ということで今週の初登場は11位以下の圏外のみ7枚でした。一方Hot 100の方では今週もまだ強いシャブージーA Bar Song (Tipsy)」が首位をキープして通算4週目の1位。でも今週の注目曲は33位に初登場してきたmgk(マシンガン・ケリー)ジェリー・ロールのまたまたロック系カントリー系のクロス・ジャンル・ワンタイム・デュオの「Lonely Road」。この曲、ちょっと聴くと判るけど、あの懐かしジョン・デンヴァーの「Take Me Home Country Road」(1971年最高位2位、日本ではオリヴィア・ニュートン・ジョンのバージョンが大ヒットしたの覚えてますか?)のサビの部分をまんま歌詞歌い直しで2人が歌ってます。曲はほぼアコギ一本というシンプルなアレンジながら、この歌い直しの曲としての強さと、その後の曲の構成とメロディがなかなかよく出来ていて、同じクロスジャンル・デュオのポスティ+モーガン野郎の「I Had Some Help」より全然いい感じ。mgkメーガン・フォックスと恋仲を演じるPVもなかなか泣かせるストーリーでよく出来てます。しかしmgkジェリー・ロールも体中タトゥーだらけやな(笑)。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (4) (15) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <71,000 pt/12,000枚>
2 (6) (74) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <64,000 pt/1,343枚*>
3 (5) (5) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <61,000 pt/897枚*>
4 (8) (19) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <53,000 pt/6,465枚*>
5 (9) (11) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<53,000- pt/6,791枚*>
6 (1) (2) ATE: Mini Album (EP) - Stray Kids<52,000 pt/48,000枚>
7 (3) (3) The Death Of Slim Shady (Coup de Grâce) - Eminem <49,000 pt/3,203枚*>
8 (7) (2) Twisters: The Album - Soundtrack <44,000 pt/7,804枚*>
*9 (14) (8) Brat - Charli XCX <40,000 pt/7,909枚*>
10 (10) (88) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <39,000 pt/2,843枚*>

消去法の首位争いを制してテイラーが首位に復活した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の首位予想(チャート集計対象期間:8/2~8)ですが、来週は多分間違いなくカニエとタイ・ダラ・サインのデュオ¥$の2枚目が首位でしょう。リリース日は8/3と一日遅いんですが多分充分なポイント稼ぐんじゃないでしょうか。それ以外にトップ10来そうなのはジャック・ホワイトと久々の新譜になるカリードくらいかな。ではまた来週。


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