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今週の全米No.1アルバム事情 #71 - 2021/3/20付

いろんな問題が勃発したり延期されたりと波乱含みだった今年のグラミー賞も、終わってみれば近年久しぶりに充実したショーのプロダクションやリル・ベイビーのBLMの現実を再現する意義深いパフォーマンスに、記録づくめで来年以降に向けて期待の持てるイベントでしたね。アカデミーの次の大きな課題は新会長の選出ですが、実はこれが一番の難関かもしれません。その前にやはりノミネーション・レビュー委員会の最終ノミネーション決定への関与を大きく減らすことを個人的には提言しますね。

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さて今週末付のオールジャンル・アルバムチャートのBillboard 200、今週も相も変わらず78,000ポイント(対先週6%減、実売は6,000枚で10%減)とポイント減を最小限に押さえたモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』がとうとう初登場以来連続9週目の1位(ため息)。これでこのアルバム、初登場以来の連続1位週数では2016年のドレイクViews』に並ぶ、歴代第3位になってしまったわけで。カントリー・アルバムの通算1位週数の記録としても、ガース・ブルックスの『Ropin’ The Wind』(1991-92年、18週)、ビリー・レイ・サイラスの『Some Gave All』(1992年、17週)、テイラーの『Fearless』(2008-09年、11週)に続く歴代4位の大ヒットアルバムということなんですが、何度も言うように黒人差別発言をスクープされて業界や自分のレーベル、カントリー業界団体からは厳しい批判と制裁を受け、本人もそれに甘んじながら、そんなこととは関係なく彼の作品を聴き続け、買い続けることで、そういう行為を間接的に是認しているとも見える層が、歴然としてアメリカ大衆の一部を構成していることを証明してしまっているわけで。改めて暗然とした気分になります。本当にそろそろチャートを降りてほしい、このアルバム。そうでないと彼自身も本当の意味であの事件を教訓にできないと思うのですが。

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さて今週は4週ぶりにトップ10内初登場があり、ちょっとチャートが賑わい気味なんですが、一方で今週もビルボード誌のチャート集計ルールの瑕疵(というか多分想定外だったと思うけど)でザ・ウィークンドの2枚のアルバムがまたまたとんでもないチャートアクションを見せてますので先にそっちを解説。集計ルールの瑕疵というのを改めて説明すると「複数のアルバムが同じ楽曲を収録している場合、当該楽曲のストリーミングポイントはすべてその週の実売枚数が最多のアルバムのポイントに加算される」というもの。そしてザ・ウィークンドの場合、去年の大ヒットアルバム『After Hours』と、今年に入ってリリースされたベスト盤『The Highlights』の両方に超ロングランヒットになっている(でもグラミーには無視されたw)「Blinding Lights」と最新ヒットの「Save Your Tears」が収録されていて、しかもこの2曲、今週のHot 100でそれぞれ8位と7位と、現時点で大ヒットしている(従ってかなりのストリーミングポイント保持曲)ため、上記の2枚のアルバムの実売数の多寡によって、ここ数週間2枚のポジションがシーソーゲームのように乱高下してるんです。『The Highlights』がチャートインした2/20付の一週前になる2/13付以降のそれぞれの先週までの順位の推移を見て下さい。

After Hours』  4→37→2→6→163
The Highlightsー→ 2→8→12→2

そして何と今週は『After Hours』実売3,000枚に対して『The Highlights』が実売2,000枚だったので、例の2曲のポイントがワッと前者に移動した関係で….何と今週163位から4位ですよ!アホかいな、と言いたくなりますね。モーガンの件はどうにもなりませんが、こんなチャート運営してるとビルボード誌の沽券に関わると思うので、ビルボード誌には早いタイミングでこのルールを(運営が煩雑でしょうが)「当該曲のポイントを半分ずつにする」とかにしてもらいたいと思います。だってあの2曲を聴いてる人はどっちのアルバムかなんて関係ないんですもんね。ちなみに今週の『The Highlights』は16位です。

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さて気を取り直して、今週の唯一のトップ10内初登場アルバム。28,000ポイント(実売24,000枚)で9位に飛び込んで来たのは、イリノイ州グレイスレイク出身のピートサムレフラー兄弟によるオルタナティブ・メタル・バンド、シェヴェルの9作目になるアルバム『NIRATIAS』。タイトルは「すべては実体がなく、これはシミュレーションだ(Nothing Is Real And This Is A Simulation)」という何やら謎掛けのようですが、どうもボーカルのピートが、電動自動車のテスラ社と宇宙旅行サービスのスペースX社CEOのイーロン・マスクが火星旅行を目指してるという報道を見て「惑星間旅行」を一つのテーマとして書き上げた楽曲をまとめたのがこのアルバムとのこと。サウンド的には、同じオルタナメタルの雄、トゥールをぐっと聴きやすくしたようなシンプルながら切れ味満点のギター・メタル・ロックを聴かせるバンドで、トップ10アルバムもこれが5枚めと、なかなか根強い人気があるバンドです。

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今週のトップ10圏外には、UKでは初登場1位ながら惜しくも11位初登場とトップ10を逃したキングス・オブ・リオンの5年ぶりになる新作『When You See Yourself』、シカゴ・ラップ・シーンの今や注目株、リル・ダークを中心とするオンリー・ザ・ファミリーなるドリル系ラッパー集団のコンピアルバム『Only The Family Presents: Loyal Bros Compilation』が12位初登場、フロリダ出身のメタルコアバンド、ア・デイ・トゥ・リメンバーの7作目で、メジャーのFueled By Ramen移籍第1弾の『You’re Welcome』が15位初登場と、トップ20内に3枚も初登場するという賑やかぶり。実はHot 100の方も、8週1位に居座っていたオリヴィア・ロドリゴの「Drivers License」を蹴落として、ドレイクの新曲「What’s Next」の1位初登場をはじめ、1位〜3位まですべて初登場独占というこちらも大賑わい。春本番になってきてチャートの方もどんどん賑わった方が楽しいですよね。グラミーを大いに彩ったシルク・ソニック(ブルーノ・マーズ&アンダーソン・パーク)の「Leave The Door Open」も見事4位初登場でした。ということでトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (1) (9) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
2 (3) (36) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
3 (4) (5) Shiesty Season - Pooh Shiesty
*4 (163) (51) After Hours - The Weeknd
5 (5) (12) The Voice - Lil Durk
6 (8) (49) Future Nostalgia ● - Dua Lipa
7 (7) (54) My Turn ▲3 - Lil Baby
8 (6) (19) Positions - Ariana Grande
*9 (-) (1) NIRATIAS - Chevelle
10 (9) (70) What You See Is What You Get ▲2 - Luke Combs

さて来週の1位予想です。Hot 100もガラリとトップ4が模様替えしたことだし、Billboard 200もそろそろ…と思うのですが、対象リリース期間の3/12–18のラインナップ、相変わらず粒が小さいリリースが多いですねえ。トップ10に食い込んで来そうなのは、先頃グラミーにもノミネートされたR&Bのニューカマー、ギヴィオンの2枚のEPに新曲を足してアルバムリリースした作品とか、ベテラン・メタル・ボーカリストのロブ・ゾンビー5年ぶりの新譜くらいかなあ。でも来週モーガンのポイントロスが相変わらず小さいようだとこの連中がトップを取るのは厳しいでしょうねえ。逆にグラミー効果で、デュア・リパリル・ベイビーあたりのアルバムがグーンとストリーミングを伸ばして1位を狙う、という方があるかもしれません。ではまた来週。

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