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Boonzzyの「新旧お宝アルバム!」 #175 「Truth Or Consequences」 Yumi Zouma (2020)

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自粛規制解除されてプロ野球も始まったこの週末、皆さんはいかがお過ごしだったでしょうか。東京の新規感染者も二桁後半を依然うろうろしてますが、心配していた爆発的リバウンドは何とか今のところは回避できてるように見えます。一方で世界的にはアメリカ南部も含め感染者数増加の傾向もありますので、引き続き個人レベルでの感染拡大回避努力は続けましょうね。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、夏至を過ぎてこれから夏に向かう季節、早目の梅雨明けも願いながら、今年リリースされたニュージーランドはクライストチャーチ出身のオルタナ・ポップ・バンド、ユミ・ゾウマの、ドリーミーなポップ・ナンバー満載の作品『Love Or Consequences』(2020)をご紹介します。

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ユミ・ゾウマ」という何やら日本人3世の女性の名前か、と思うようなユニークなネーミングのこのバンド、名前の由来はオリジナルのメンバーが一緒に曲を作るように勧めてくれた友人2人の名前を組み合わせたものだというから、実はこのグループの誕生には日本人女性が関わってたのかも。

このバンド、2014年のバンド結成の頃からメンバー間の曲作りはすべてネット経由ファイル・シェアリング・サイトを通じて遠隔でやってたっていうのがいかにも21世紀の今どきのバンドです。その理由の一つが、メンバーはもともと前述のようにニュージーランドのクライストチャーチ出身なんですが、メンバーで曲作りを始めたのが、リーダーのジョッシュ・バージェス(g, b, vo, kbd)がNYに移住してレコード・レーベルで仕事始めてからだったそうなんで。そして今回ご紹介の『Truth Or Consequences』の前作になる2作目『Willowbank』(2017)の録音まで、バンドで集まってスタジオで録音したことがなかったっていうから徹底してますな(笑)。

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そんなユミ・ゾウマ、サウンド的には一言でいうと、シンセやサンプラーの打ち込みを上手に使った、今風のドリーミーなシンセ・ポップ。でも、彼らの音像は機械的で無機質なものではなく、温かい陽の光の下で芝生に寝転がって、ちょっとワインか何かで浮遊感に身を任せているような、ふわふわしたドリーミーさが大変に心地よい、そんなサウンドのバンドです。サウンド的にはテイム・インパラThe 1975をもう少し柔らかくしたような音に乗せて展開してくるメロディや楽曲構成は、ハイムなどと同様「フリートウッド・マックの子どもたち」といった表現がぴったりくる、ドリーミーながらしっかりとしたビート感が魅力です。そしてその雰囲気を盛り上げているのがボーカルのクリスティー・シンプソンのまどろむような歌唱スタイル。同じ女性ボーカルのドリーミー・ポップというと、一昨年評判を集めたクライロの名前も思い出しますが、あの宅録感よりはもう少しいろいろな楽器がインターアクションしている、バンド感がより強いのがこのユミ・ゾウマです(ちなみにこのユミ・ゾウマも、クライロも先日残念ながら来年延期が決まってしまったフジロック2020に来日予定だったので、苗場で聴き比べができたら面白かったでしょうね)。

アルバム冒頭の「Lonely After」はこうした彼らのスタイルを端的に凝縮したようなアップテンポのポップ・ナンバー。そしてサビメロが英米系のバンドだったら多分あまり作り出せないような、何かすごい90年代J-Popっぽいイナたい感じで、それがまた新鮮でいいんですね、これが。続くシングル・カットの「Right Track / Wrong Man」は、いわばテイム・インパラThe 1975の曲調を彷彿させる、ちょっとマイナー調の今時のシンセ・ポップなので、今の若いオーディエンスにはこちらの方が受けがいいのかも。後半の「Truer Than Ever」などもそうしたスタイルが有効に機能してますね。そして次の「Southwark」はイントロからいきなりOMD(オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク)か!って感じのベタな80年代シンセ・ポップ風の軽快な曲。でもクリスティーのボーカルのおかげでそのベタ感が気にならないのが得してるところかな。

このバンドのメンバーには他に、ジョッシュとギターとベースとキーボードの担当を分けてるチャーリー・ライダーと、何と女性ジャズ・ドラマーのオリヴィア・キャンピオンの2人がいますが、このオリヴィアのシュアなドラミングが結構いい仕事してる「Sage」を始めとして、どの曲もかなりビートがはっきりしてるので、彼らのことを「ディスコ・ポップ」なんて呼んでる音楽メディアもあるようですが、前述のように個人的にはこのあたりが彼らがハイムあたりと通じるスタイルを持ってる特徴で、かつ魅力だと思ってます。「Mirror To The Fire」なんかも壮大なシンセ・オーケストレーションが下手すると大仰なアレンジに堕してしまいがちなところを、しっかりとした四つ打ちのリズムが締めてたり。

そして前述のOMDイレイジャー、初期のデペッシュ・モードあたりの80年代シンセ・ポップへのオマージュ的な曲が多いのも個人的にはポイント高いところです。「Cool For A Second」や、アルバム後半の「My Palms Are Your Reference To Hold To Your Heart」やラストの「Like Like You Want Me Back」などはまさしくそういった曲たち。そういうスタイルを彼ら独特のドリーミーなスタイルでクリスティーのボーカルで歌われる「ユミ・ゾウマ・スタイル」で表現してて、80年代シンセ・ポップを知ってる人間としては思わずニヤリとしてしまうのです。

このアルバム、特にバンドのパフォーマンスがものすごいとか、楽曲が斬新だとか、そういう類の作品ではありませんし、歴史に残る名盤か、というとまあそういうわけではないと思います。でも普通のようでちょっと気になる魅力や、既聴感をくすぐるような懐かしさや、甘酸っぱさがふんだんに詰まった、肩の力が抜けたような親しみやすさが妙に耳に残って、気がつくとリピートしてる、ってそんなちょっとした聴き方が心地よい作品。本当はこのサウンドを苗場のフジロックの青空の下で聴ければ最高だったんでしょうけど、この夏はソーシャル・ディスタンスを保ちながら、いい天気の日の木陰でぼんやりしながら難しいことを考えずにこのアルバムを聴きたいな、と思います。たまにはそういう音楽も必要ですよね、特に今のようなコロナの時代には。幸いにピッチフォークをはじめとした音楽メディアでの評判も上々のようですし、幸い日本盤も出てるようなので(邦題の『真実か帰結か』って意味不明で明らかに直訳的誤訳ですけどねw)皆さんも是非聴いてみてください。

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良質のポップ・ミュージックはいつの時代にも聴く者の心を和ませてくれるもの。この21世紀には、それが従来の楽器に加えて、エド・シーランの例を挙げるまでもなく、サンプラーやシンセを使って表現される時代、そんな時代のフォーミュラをうまーく使って、聴く者の心を和ませてくれるこのアルバムには、しばらくお世話になりそうです。

<チャートデータ> チャートインせず

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