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今週の全米No.1アルバム事情 #52 - 2020/11/7付

いよいよ始まった2020年大統領選の開票。各州で激戦が続いていて勝負の行方は予断を許しませんが、選挙の結果で自分が負けたら結果を認めず法的措置に訴えるつもりというトランプ陣営の耳を疑うような報道なんか聞くと暗澹たる気分になりますが、是非アメリカにとって、そして世界にとって良識ある決着を望みたいものです。

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さて今週末のBillboard 200の1位、チャートを見て思わず「なにーい!?」と目を疑ったのが、九分九厘確実に1位だと思っていたブルース・スプリングスティーンの新譜『Letter To You』ではなく、何と1年前の昨年11月に初登場で1週1位だった、ルーク・コムズの『What You See Is What You Get』が何と1年ぶりに先週21位から一気に1位に返り咲いていたこと。なぜ今頃1年前のナンバーワンアルバムが急に復活したか、という問いの答えは「今週チャートの集計期間に6曲追加した『What You See Ain't Always What You Get』というデラックス・バージョンが再発されたから」。でもなぜ1年後の今週なのか、しかもブルースの期待が高まっていたアルバムと同じ日のリリースにしたのか、という問いの答えは「よくわからない」と言わざるを得ませんね。

今週はその追加された曲の一曲「Forever After All」がいきなりHot 100の2位に初登場するなど、アルバム売上だけでなくストリーミングのポイントがカントリー・アーティストとしての記録(従来の、7400万オンディマンド・ストリーミング相当のポイントという記録もルークが持ってました)を大きく塗り替える1億オンディマンド・ストリーミングを記録したのが、今回の大ジャンプによる1位返り咲きにつながったようです(トータルポイントは109,000ポイント、うち実売はわずか22,000枚)。
しかしなあ、デラックス・バージョンを後出しして、ストリーミング人気を盛り上げてチャートを席巻する、というんだったら最近の若手ラッパーのマーケティングと同じやり方ですよね。この後触れますが、ストリーミングよりも何よりもフィジカルを真面目に買ってくれた全米のボスのファンの期待を、たかだかデビューして数年のカントリー・シンガー(彼の作品自体はリスペクトできるものだと思いますが)が見事に裏切ったわけですから、これはないわ。何となく大統領選の結果に不安を抱かせるような、そんな出来事に個人的にちょっと今ショック受けてます。

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そしてそのボスが久々にEストリート・バンドと一緒に届けてくれた、バンド時代のダイナミズムを維持しながら、いろんな意味で心に深く響いて来る楽曲満載の『Letter To You』は、96,000ポイントという1位との僅差、しかも実売92,000枚というぶっちぎりの売上で、でもチャート上は初登場2位。全英を含め世界8カ国で堂々の1位を飾りながら、肝心の本国USでは、前作『Western Stars』(2019)に続いて2位に泣くという皮肉な結果になったわけです。ちなみにこの92,000枚の初週売上は、前々作で今のところボスの最後のナンバーワンアルバム『High Hopes』の99,000枚以来の売上記録だそうです(2014/2/1付)。

目の前に来ては過ぎていく様々な人々や出来事を時の流れのうつろいになぞらえるかのように歌うオープニングの「One Minute You’re Here」から始まり、自らのソングライティングに対する信念と思いを私達に届ける手紙になぞらえるアルバム・タイトルナンバー、若い頃からバンドで走り続けてきたけど気がついたら残っているのは自分だけ、という自らのミュージシャン人生を振り返るかのような「The Last Man Standing」、そして既に旅立ってしまった友人を思いながら、自らの死後も含めて未来を見つめる「I’ll See You In My Dreams」など、往年の豪快なバンドサウンドの中にも心にずっしりと響いてくるボスの今回の新作、かくなる上は長期にトップ10にとどまってもらって、2022年1月発表の第64回グラミー賞では是非最優秀アルバム部門を狙ってもらいたいなあ(来年1月の63回グラミーの対象外なので)。

もう一つ。今回の『Letter To You』の2位で、ボスは過去6デケイド(’70s, ‘80s, ‘90s, ‘00s, ‘10s, ‘20s)すべてにおいてトップ5アルバムをチャートインした最初のアーティストになりました。このアルバム、いろんな意味でボスに取ってランドマークな作品になりそうですね。

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今週のトップ10初登場はもう1枚。先週の予想でも名前を出してた、もう何だかベテランの趣もあるヒップホップシンガーのタイ・ダラ・サイン(本名:タイロン・ウィリアム・グリフィンJr.)が豪華ゲスト満載でリリース、明らかに「売りに来た」3作目、その名も『Featuring Ty Dolla $ign』が4位に初登場(44,000ポイント、実売4,000枚)。

どのくらい豪華かというとメンツが、ポスティ、カニエ、アンダーソン・パーク、ロディ・リッチ、ジェネ・アイコ、クエイヴォ、ケラー二、ガンナ等々、大御所から今旬の連中まで総動員してます。こらあヒップホップ・ファンが聴きたくなるのも無理はなし。ただそれにしてはストリーミングが5,000万オンデマンド・ストリーミング相当と、ルーク・コムズの半分というショボさがやや誤算か。ニッキー・ミナージをフィーチャーしたシングル「Expensive」もチャートアクションは冴えず、今回のアルバムで初のトップ10入りを果たしたものの、このアルバムからあとどのくらいヒットが出るかはちょっと定かではなさそう。

ということで今週のおさらい。今週は他にもハリー・スタイルズの『Fine Line』が「Golden」の新作PVリリースの関係で20位からトップ10返り咲き。圏外めぼしいところでは、12位にゴリラズのウェブシリーズのサントラ盤的位置づけの『Song Machine, Season One: Strange Timez』が初登場で目立つくらいで、個人的にどの辺にくるかなあ、と思ってたビースティー・ボーイズの新しいベスト盤『Beastile Boys Music』は64位初登場と地味な結果でした(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (21) (51) What You See Is What You Get ▲ - Luke Combs
*2 (-) (1) Letter To You - Bruce Springsteen
3 (2) (17) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
*4 (-) (1) Featuring Ty Dolla $ign - Ty Dolla $ign
5 (4) (16) Legends Never Die - Juice WRLD
6 (3) (4) Savage Mode II - 21 Savage & Metro Boomin
7 (7) (35) My Turn ▲2 - Lil Baby
8 (8) (266) Hamilton: An American Musical ▲7 - Original Broadway Cast
9 (9) (5) Tickets To My Downfall - Machine Gun Kelly
10 (20) (46) Fine Line ▲ - Harry Styles

さて来週の1位予想ですが、対象期間10/30-11/5では、もう抜群に光ってるのが、アリアナの新譜。今週のボスのようなこともあるから不安にもなりますが、同じ日のリリースで、ひょっとして絡んできそうなのがトリッピー・レッドくらいで、でも今週のHot 100、ルーク・コムズをぶっちぎって「Positions」が1位初登場したアリアナのこと、来週の彼女の1位は堅そうです。ではまた来週。

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