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Boonzzyの「新旧お宝アルバム!」 #185 「Hearts Town」 The War And Treaty (2020)

いやあ昨日のワールドシリーズの劇的なレイズのサヨナラ、凄かったですね。これで今日の第5戦でカーショーグラスナウのどちらか試合を支配した方が一気に最後まで行ってしまいそう。やはり日本人としては判官贔屓もあるし、筒香が所属するレイズに勝って欲しいけど、その前に筒香も何らかの実績をこのワールドシリーズで残してからにして欲しいもの。まあ、本人がそれを一番欲してるでしょうけどね。しかしここまでワールドシリーズ見てて盛り上がるのは久しぶり。選手達には悪いけど、是非第7戦まで行って存分に堪能させてもらいたいもんですね。

コロナ禍はあれど、季節は深まる秋、スポーツだけでなく音楽も存分に楽しめる気候になってきました。この秋もブルース・スプリングスティーンの新譜など数々の話題盤のリリースの一方、いよいよ来月末にはグラミー賞候補も発表になる、そんな時期。ここしばらくお休みしていた今週の「新旧お宝アルバム!」、そんな秋深まる中で心にドスーンと響き入り、そしてじわーっと滋味が染み渡ってくる、ソウル、ゴスペル、フォーク、カントリー、ブルースなどの要素が渾然一体となってどっしりとした、それでいて高揚感あふれるグルーヴを伝える、アメリカン・ルーツの真髄を味わわせてくれる作品をお届けします。今日ご紹介するのは、先月リリースされたばかり、マイケル・トロッターJr.タニヤ・ブラウントの黒人夫婦デュオによるユニット、ザ・ウォー・アンド・トリーティの2作目で、ナッシュヴィル録音の『Hearts Town』(2020)です。

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そもそも自分が彼らの名前を知ったのは、アマゾンのおすすめ機能でポッと出てきたこのアルバムを目にしたのがきっかけ。夫婦ともに随分と恰幅のしっかりした(失礼)二人がピアノに寄り添って何となく雰囲気満点で移っているジャケを見てピン!と来るところがあったので音を聴いてみたところ、これがまんまストライクだった、というわけ。もちろんソウル/ゴスペル・シンガー的な二人の卓越した歌唱力と表現力もさることながら、アメリカーナファンならとっても気になるアーティスト達の客演が、ジャンルを超越した感じで素晴らしかったのも今日取り上げようと思った大きな要素でした。その客演曲とは、今やアメリカーナを代表するオルタナ・カントリー・シンガーソングライターのジェイソン・イズベル(今年1月にビルボードライブで観たライブが遠い昔のようですが)がフィーチャーされた、いかにもジェイソンらしいドラマティックなアレンジでサザン・ロックっぽいギター・サウンドもフィーチャーした「Beautiful」と、アメリカーナファンならご存知、ドブロの達人のジェリー・ダグラスパンチ・ブラザーズのギタリスト、クリス・エルドリッジをフィーチャーした、カントリー・ブルース的なアコースティックなナンバー「Hustlin'」の2曲。この2曲を聴いただけでも、彼らが普通のソウル・デュオではなく、一つのジャンルに類型化できないアーティストであり、かつこうした様々な音楽ジャンルをルーツに持っていて、それを見事に自らの作品に昇華していることがわかります。

奥さんのタニヤは、もともとミュージシャンとしてのキャリアが長く、最初に彼女がシーンの注目を集めたきっかけは、ウーピー・ゴールドバーグ主演の映画『天使にラブ・ソングを2(Sister Act 2: Back In The Habit)』(1993)に出演、あのローリン・ヒルとゴスペルナンバーをデュエットしたこと。これをきっかけにメジャーのポリドールと契約してリリースしたデビュー・アルバム『Natural Thing』(1994)がそこそこのヒットに。その後あのショーン・パフィ・コムズバッド・ボーイ・エンターテインメントと契約したのですがうまくいかず、パフィとの契約を切る一方、2000年代はもっぱらミュージカルを中心に活動していたようです。

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一方ご主人のマイケルは、9-11の数年後に米国陸軍の兵役でイラクのサダム・フセインの宮殿近くに駐留している時に、たまたま手に入ったピアノを弾きながら歌った自作曲が部隊の仲間の評判を呼んだことをきっかけに退役・帰国後、音楽をキャリアとすることを決心。いろいろ活動をする中で、ある音楽フェスで、同じステージでパフォーマンスしたタニヤと意気投合して、一緒に活動を始めてついには結婚。2016年にはトロッター&ブラウント名義で初のデュオアルバム『Love Affair』をリリース後、2017年には名義改めザ・ウォー・アンド・トリーティとしてリリースしたEP『Down To The River』からの曲、「Hi Ho」がペイスト誌などの音楽誌に取り上げられて注目を集め、翌2018年発表のファースト・フル・アルバム『Healing Tide』はあのローリング・ストーン誌がパワフルに演奏されるタイトル曲を「アイク&ティナ・ターナーを彷彿させるロックとソウルの渾然一体となったサウンド」と評したほど。そして今回のアルバム同様、このアルバムでもあのエミルー・ハリスと共演した、カントリー・ゴスペル的なナンバーを披露するなど、彼らの音楽的多様性はこの頃から一貫していました。

今回の『Hearts Town』でも、その多様性はしっかり継承されていて、先に触れた2曲以外にも、力強いルーツ・ロックっぽいオープニング・ナンバー「Yearning」や、カントリー・ポップ的な味わいのある(しかしタニヤのボーカルが入った瞬間にR&B風味がぐっと増すのですが)タイトルナンバーの「Hearts Town」、アコギ一本で見事なカタルシスを産み出してくれる、アコースティック・ゴスペル・ナンバーとでもいうべき「Jubilee」、更にはエレクトロなメインストリーム・ポップの香りを漂わせつつ、泣きのギターも入った陰りのあるメロディと二人のコーラスが独得の魅力を生んでいる(アクションものの連ドラのエンディング・テーマとかに使うとよさそうな)「Jealousy」などなど、様々な楽曲スタイルを縦横無尽にこれでもかと繰り出してくる懐の深さがなかなか心地よいのです。

もちろん、その体格を武器に(笑)グルーヴ満点にパフォームするソウル・ナンバーも彼らの独壇場で、ストリングスをバックにマイケルが『Modern Sounds in Country and Western Music』(1962) のレイ・チャールズよろしく哀愁たっぷりのソウルを歌う「Hey Pretty Moon」や、ホーンセクションをバックにメンフィスやマッスルショールズ的なR&Bグルーヴ満点で迫ってくれる「Five More Minutes」、オールド・スタイルな3連リズムのピアノとストリングスをバックにマイケルタニヤが交互に熱唱する、ノーザン・ソウル・スタイルのバラード「Lonely In My Grief」などなど、こちらも聴き所満点。

そしてアルバム最後を締めるのは、ピアノをバックに、タニヤの朗々とした歌声にマイケルがコーラスを付け、次第にゴスペル的なカタルシスでぐーっと盛り上がって終わる「Take Me In」。何やらとっても感動する映画を見終わった後のエンドロールを見ながら聴いているような、そんな感覚に陥りそうな満足感を覚えるラスト・ナンバーですね。

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どちらのアルバムもまだ聴き込みが充分でないので、あくまで数回ずつそれぞれのアルバムを聴いた感想ですが、前作『Healing Tide』がどちらかというとタニヤのパワフルなボーカルが前面に出ている楽曲が多めだったのに対し、この『Hearts Town』は、二人のボーカルの力強さと、感情表現の巧みな繊細さが、ちょうどいいバランスを持って構成されているような感じもあり、ある意味いい意味で「肩の力の抜けたいい感じ」な作品に仕上がっているように思います。そういう意味では、ザ・ウォー・アンド・トリーティというアーティストを理解するには、ちょうどいいアルバムかもしれません。

このアルバムを聴きながら、数年前にナッシュヴィルからメンフィスに旅した際に例の有名なビール・ストリートを夜、ライブハウスからライブバーをハシゴしながら、様々なバンドやミュージシャン達の演奏を聴いて、いずれも全く無名なのに、ビックリするくらいの演奏力と歌唱力で、アメリカという国の広さを改めて思い知ったことを思い出しました。気が付くとつい先週までは聴いたことなければ名前も知らなかった彼らの作品にこれほどまでに引き込まれていく自分。まだまだ世の中には自分が知らないだけで、素晴らしいミュージシャン達はいくらでもいるんだ、と思うと、ますますいろんなところにアンテナを広げていって、こういう形でできるだけ多くの方と共有していくことの重要さを再認識しています。まあ、そんな堅いことは抜きにしても、ソウルフルなうたがお好きな方であれば、このザ・ウォー・アンド・トリーティ、絶対にお勧めです。

<チャートデータ> チャートイン(まだ)なし

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