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今週の全米アルバムチャート事情 #239- 2024/6/8付

いやあやってくれましたね、ゴルフの笹生優花選手!今週月曜日朝一番に飛び込んで来た笹生選手の全米女子オープン優勝の報に気分が上がったゴルフファンも多かったと思います。今年の全米女子オープンには21人の日本人選手が参戦、最終的に笹生選手渋野日向子選手日本人ワンツーフィニッシュを決めて、トップ10に日本人選手が5人も名を連ねるという、ワクワクするような大会を存分に楽しませてもらいました。こうなってくると男子もウカウカしてられないぞ!ということで来週の男子の全米オープンも楽しみになって来ました。日本からは松山英樹、石川遼など5選手が出場予定とのことなので、まずは全員決勝ラウンド進出を決めてもらいたいね。

The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

ということで興奮冷めやらぬ中、今週の全米アルバムチャート、6月8日付のBillboard 200の首位は、期待されたビリー・アイリッシュHit Me Hard And Soft』の首位奪取は、145,000ポイントとテイラーの『The Tortured Poets Department』の175,000ポイント(うち実売41,000枚)には残念ながら及ばず、今週も1位はテイラー、ビリーは2位という結果になりました。残念。テイラーは今週、先週比54%減と、予想どおり大きくポイントを落としたんですが、ビリーは更に57%減と大きく落としてしまったので逆転はなりませんでしたね。これでテイラーデビューから6週連続首位で、2016年1月のアデル25』(デビューから7週連続1位)以来のデビューからの長期政権ということになります。

先週のテイラービリーのガチ対決の後、結果ビリーが2位に甘んじたことについては、ビルボード誌も含めてメディアでもやはりビリーの健闘を高く評価する論調が多いようです。加えてやはりビリーの楽曲全体に対する評価も高く(メタクリティック89点!一方テイラーのアルバムはメタクリティックで76点でした)、ジブリアニメの『千と千尋の神隠し』にインスピレーションを得たという「Chihiro」、UKでは「Lunch」と共に先週トップ10初登場で、今週5位に上昇しているキャッチーな「Birds Of A Feather」などは特に人気が高いようで、いずれもスポティファイのデイリーチャートのトップ10近辺にリリース以来ずっと居座ってます。しかし既に10万ポイント台まで下がって来ているので、もし首位逆転があるとすれば、今週はメガな新譜はドロップしていないので、来週がギリ最後のチャンスだと思われます。来週何とかビリー、1位取れないかなあ。

"Clancy" by twenty one pilots

しかし今週、そのビリーを危うく抜いて2位に来そうだったのが、トウェンティ・ワン・パイロッツの7作目『Clancy』。143,000ポイント(うち実売113,000枚で今週ブッチギリのアルバム・セールス首位)とわずか2,000ポイント差で3位初登場に甘んじています。しかし10万枚初週実売というのはロック系にしてはかなりのビッグな数字なので確認したところ、彼らも11種類のヴァイナル・バージョンや、ロゴ入りノベルティ付きのCDボックスや、4曲のライブ音源のボートラ入CDとか、いろいろマーケティング工夫して売ったみたいです。

これで2015年の『Blurryface』(全米1位)で大きくブレイクしてから4枚連続トップ3と相変わらず高い人気を誇ってるトウェンティワンですが、ちょっと聴いてみたところサウンドは今回かなりいろんなことやってますね。オープニング・ナンバーで先行シングルの「Overcompensate」はいきなり90年代のプロディジーか!と思うようなデジタル・ヒップホップっぽいサウンドで重厚なビートを畳み掛けて、リードボーカルのタイラーがあちこちでラップでロックしてるという、彼らのヒップホップ風味のロックという出自に立ち返って更にパワーアップしたようなナンバー。かと思うと続く「Next Semester」は涼し気なシンセ四つ打ちロックビートに乗せてスケールの大きい盛り上がりを見せたかと思うと後半アコースティックに収束していくという、初期のコールドプレイのような王道コンテンポラリーロック。そして続く「Backslide」は抑えめのビートに乗せて、タイラーがある時はリンキン・パークチェスターのように歌い、ある時はラップし、とこれも彼らでないと、と思わせるナンバー。それ以外の楽曲も、独特でキャッチーながら、いつものように殆どの曲を書いているタイラーの独特の世界観で織り上げられているのが魅力ですね。うちのカミさんも大ファンなので、しばらくうちでパワーローテーションになりそうです。今週UKアルバムチャートでも初登場2位です(1位は先週のビリーを蹴落として通算4週目のテイラー)。

"Right Place, Wrong Person"  by RM

今週のトップ10初登場はもう1枚、先週の予想どおり、BTSRMのソロ2作目『Right Place, Wrong Person』が5位にチャートインしてきてます(54,000ポイント、うち実売43,000枚)。先行シングルの「Come Back To Me」が先週Hot 100を外してしまってたのでちょっと心配していたんですが、ファースト・ソロ・アルバムの『Indigo』(2022)の3位に続いて無事トップ10入りを果たしてます。確か彼は去年の年末から兵役中だと思うんですが、昨年その前にレコーディングしてたんでしょうね。

聴いてみてちょっとビックリしたのは、収録されてる楽曲のエキセントリックさというか、サイケデリックさというか、とにかくBTSの超メインストリーム・ダンスポップ路線をイメージして聴くと目が点になる人も結構いるんじゃないかな、という作品。前作が結構キャッチーな感じだったのでその落差が凄い。オープニングのアルバム・タイトルナンバーはエレクトロなサイケデリック・ロック、という感じだし、次の「Nuts」は去年のリル・ヤッティのアルバムを思わせるような、エレクトロでエキセントリックなビートに乗ってRMがラップというより喋ってるトラック(横で聴いてたヒップホップヘッズの息子が「昔のトラヴィス(・スコット)みたい」と言ってたけどなるほどそんな感じもあり)。UKの女性R&Bシンガー、リル・シムズをフィーチャーした「Domodachi」は更にそれがゲシュタルトしてるようなサイケデリック・ヒップホップの世界だし、天才若手ジャズ・デュオのドミ&JDベックをフィーチャーしてる「」はゲストの色に合わせた変則リズムのジャズ・ヒップホップのほぼインストナンバーを聴かせていて、いやもう『サージャント・ペッパーズ』か!と思うような内容ですね。だいたいゲストの人選がリル・シムズドミ&JDベック、そして後半の「Around World In A Day」では超個性派R&Bシンガーのモーゼズ・サム二ーと、やたら激渋。シングルの「Come Back To Me」はローファイなベッドルーム・ポップ風で一番普通っぽいんですが、それ以外の曲がかなり捻れてるんで、このアルバムを聴いたBTSアーミーのみんながどういう感想を持ったのか興味津々ですねえ。

"In Sexyy We Trust" by Sexyy Red

トップ10内初登場は以上2枚ですが、今週圏外11〜100位には5枚の初登場。その先頭を切っているのが、セントルイスのエロエロトラップ娘、セクシー・レッドのセカンド・アルバム『In Sexyy We Trust』。去年テイ・キースニッキー・ミナージュをフィーチャーした「Pound Town 2」(66位)、ピンのヒット「SkeeYee」(62位)でブレイクした後、SZAと一緒にフィーチャーされたドレイクの「Rich Baby Daddy」(11位)の大ヒットでまた一段名を売って、今年に入ってこのセカンド収録の「Get It Sexyy」がトップ20ヒット、と何だか着実に階段を登るように人気を集めてます。今回のアルバムのトップ20入りは間違いなくかなりのファンが付いてることの証明ですよねえ(ちなみに昨年リリースのファースト『Hood Hottest Princess』は62位)。

いやあでもねえ、この子のエロエロ路線(肌や胸やケツはあんまり出してないんですが、路線がエロエロ)といい、今更あまりにも芸のないトラップトラック一本のスタイルといい、全米のヒップホップ・ヘッズのティーン(特に白人?)あたりが飛びついてるのかもしれないんだけど、自分はちょっとパスですねえ。この「Get It Sexyy」のPVには去年コラボしたドレイクも友情出演してるんだけど、ドレイクも何が良くてこの子とつるんでるんだか、よく判りません。

"Model" by Wallows

気を取り直して次に行くと、28位にチャートインしてきたのは、LA出身のオルタナロック3人組、ワロウズのサード・アルバム『Model』。ファーストの『Nothing Happens』(2019)が75位、セカンドの『Tell Me That It’s Over』(2022)が49位、そして今回が28位のキャリアハイと、最近のロック系にしてはコロナ後も順調にキャリアを積み上げてきてます。何でも2018年にメジャーのアトランティックと契約する前から、LAの有名ライブハウス、ロキシートゥルバドールに出演してはソールドアウトのライブをやってたというから、かなりの実力派ですね。

スタイルとしては、2000年以降のオルタナ・ロックには珍しくほとんどヒップホップの影響を感じさせない、どちらかというとインディー・ギター・ポップというか、ソフトなパワー・ポップといった感じのとても聴きやすい楽曲で勝負しているバンドみたいです。シングルの「Calling After Me」なんてほとんど80年代のギター・ポップ・バンドみたいな、シンプルなギターリフが耳に残る懐かしさを感じる曲かと思うと、ドリーム・ポップ的な「Bad Dream」みたいな曲もやるし、80年代シンセポップみたいな「A Warning」もやるという、なかなか器用なバンドなんでしょうね。今年はこの後8月から9月までは全米、10月から12月はヨーロッパからオーストラリアを回るツアーに出るようなので、この楽曲のキャッチーさからいってその間に1つや2つのシングルヒットも出るかもしれません。要注目のバンドですね。

"Post Human: NeX GEn" by Bring Me The Horizon

続いて36位初登場は、イギリスはシェフィールド出身のメタルコア・バンド4人組、ブリング・ミー・ザ・ホライズンの7作目『Post Human: NeX GEn』。イギリスのバンドながらアメリカでもかなりの根強い人気を誇っていて、2010年の3枚め『There Is A Hell Believe Me I’ve Seen It. There Is A Heaven Let’s Keep It A Secret.』(US 17位、UK13位)以降、前々作の6枚目『Amo』(2019年、US14位、UK1位)まで安定してトップ20には必ずアルバムを送り込んでました。今回のアルバムは前作2020年の『Post Human: Survival Horror』(US 46位、UK 1位)からの「Post Human」シリーズ第2弾ですが、前作同様アメリカではちょっとチャートの順位を落としてますね。

このバンド、初期はデスメタルみたいなこともやってたようですが、初チャートインを果たしたセカンドの『Suicide Season』(2008年107位)からは、よりメロディアスで叙情的な楽曲構成中心のエモなメタルコアバンドに変貌すると同時に全米でも人気を集め始めました。今回のこのアルバムも強力なパワーで爆発しながら、メロディはあくまでもキャッチーで、ドラマチックな楽曲構成の「YOUtopia」を始め、重戦車のような演奏で迫りくる「Kool-Aid」など、しっかりとした演奏と楽曲でまとめられていて、これ日本のメタルファンやハードロックファンの間でも受けるんじゃないかな、と思ってたらとっくにこれまで何度も来日していて(2010年、2011年、2014年、2019年、2023年)結構既に日本でも人気あるようです。特に2019年の来日時は大阪城ホールでベイビーメタルと共演してるとのことで、今回のアルバムもきっと日本のメタルファンに人気を呼ぶことでしょう。

"Dark Times" by Vince Staples

今週最後の100位までの初登場は、69位にチャートインしてきたNWAケンドリック・ラマーと同じカリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルズの6作目『Dark Times』。ストイックでハードコアで社会派っぽいMC、というイメージからパーティ・トラップっぽいトラックもやって、ちょっと聴きやすい感じになっていた前作『Ramona Park Broke My Heart』(2022年21位)とその前作で2021年の音楽メディアから絶賛されていた『Vince Staples』(2021年21位)まで音楽メディアの評価もさることながら、チャート順位でも常にトップ40に送り込んできてただけに今回のこの順位は「ヴィンスよ、お前もコロナの犠牲者かあ」と思ってしまいますね。

2019年のフジロックに来てた時初めてホワイト・ステージで彼のパフォーマンスを見て、そのスリリングでテンションの高いステージ運びに強い印象を受けてたところに、前作のちょっとキャッチーな感じが来たのでちょっとイメージが違ってたけど、今回はまさにその2019年のフジロックのステージを思わせるように、うまーい感じでレイドバックで、適度にスリリングで、聴いてて面白いトラックをふんだんに駆使しながら染み入ってくるようなフロウを繰り出すヴィンスが聴けて、なかなか気に入ってます。この人の好きなところは、そのフジロックのステージのバックに70〜90年代のアメリカン・ポップ・カルチャー・アイコン映像を並べていたように(「Seinfeld」とか「Friends」とかクイズ番組「Jeopardy!」とかの映像)、トラックに70〜90年代のクラシックなヒップホップのエキスをふんだんに使っていて(「”Radio”」ではマーヴィン・ゲイの『Midnight Love』(1982)の頃のボーカルがふわっと亡霊のように登場して思わずニヤリ)、安易なトラップやドリル・ビートなど一切使ってないところ。元々オッド・フューチャー出身ということも大きいんでしょうね。そしてタイトルが示すように、今のアメリカを取り巻く暗いイメージを表現するかのような、全体を包むやるせない雰囲気が聴いててひたすら気持ちいいです。今年前半のヒップホップでは個人的にベストかも。デジタル・ストリーミング・オンリーなのが惜しいところです。

というところで今週の100位までの初登場は合計7枚でした。Hot 100の方はと言うと、意外とポスティモーガン野郎の「I Had Some Help」が強くて、ケンドリック・ラマーNot Like Us」やトミー・リッチマンMillion Dollar Baby」らの攻勢をかわしながら今週も首位をキープ、これで3週目です。ただ来週の集計期間である5/31から4日連続、スポティファイ・デイリー・チャートはトミー君が首位なので、来週はいよいよトミー君念願の1位があるかもですね。トップ10ではその他、今年3枚目のアルバムリリースが予定されてるザック・ブライアンの、そのアルバムからの先行シングル「Pink Skies」が6位に初登場してます。相変わらず、ザックらしいストレートでエモな感じの、彼のハーモニカも絡むアコースティック・バラードで、この人の曲はやっぱり心に染み入ります。これ以上上に来ることはないでしょうが、ニューアルバムへの期待がいやがおうにも高まるというものですね。では今週のトップ10、おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (6) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <175,000 pt/41,000枚>
2 (2) (2) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<145,000 pt/43,345枚*>
*3 (-) (1) Clancy - twenty one pilots <143,000 pt/113,000枚>

4 (3) (65) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <73,000 pt/1,260枚*>
*5 (-) (1) Right Place, Wrong Person - RM <54,000 pt/43,000枚>
6 (6) (177) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <45,000 pt/354枚*>
7 (5) (10) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <43,000 pt/63枚*>
8 (4) (3) One Of Wun - Gunna <42,000 pt/103枚*>
*9 (7) (79) Stick Season ▲ - Noah Kahan <40,000 pt/2,980枚*>
10 (8) (40) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <37,000 pt/2,256枚*>

テイラーが今週もビリーを僅差でしりぞけた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?さて今週も最後に来週の1位予想(チャート集計対象期間:5/31~6/6)ですが、今週リリースの新譜で来週のチャートでテイラー、ビリーと首位を戦えるようなリリースは….うーんないなあ。シングル「A Bar Song (Tipsy)」がヒット中のシャブージーのアルバムがリリースされるけど、まあ1位はないなあ。となると来週はテイラー、ビリーとも半分くらいにポイントが減衰すると思うので、7~8万ポイントの争いになりそうだけど、最悪のシナリオは今週4位に粘ってるモーガン野郎(こいつ、ずっとポイントをほとんど減らしてないです)が来週も今週くらいのポイントで首位をかっさらっていく、というもの。ああいやだいやだ、だから予想としては来週こそラストチャンスでビリーが首位を接戦を制して取る、ということにしておきましょう。ではまた来週。

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