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耳は聞こえないけど、声なき声を聴けるようになりたいと思えた映画『52ヘルツのクジラたち』

バリアフリー字幕のご縁をいただいて、数ヶ月前に鑑賞してから、公開をずっと待っていました。

ひと足お先に…

原作本を持っていたのに、読んでいないまま、ストーリーも設定もなーんにも知らないままパソコンの小さな画面で初鑑賞。
そして、、、正直言えば、字幕の細かいチェックなんてできないほど、入り込んでしまった、、ことをここに白状します。

親や一緒に住んでいた叔父の影響で、子供の頃から映画が好きで、それは耳が聞こえなくなってからも変わりませんでした。
字幕のつく洋画しか観れない時代を経て、今は、字幕メガネで日本映画もかなり自由に観れるようになってきて、私の映画好きは再燃、鑑賞機会はピークになっています。
そんな中、いろいろな作品と出会うけど、この『52ヘルツのクジラたち』はベスト10どころかベスト3、、いや、ここ数年では1番の作品。

何が?どこが?
うまく言えません。

ヤングケアラー
児童虐待
DV
LGBTQ+

現代社会が抱える大きな問題がたくさん詰まっていて、決して明るいストーリーではありません。
志尊淳くんは以前もトランスジェンダー役を演じて話題になったことがあったとのこと。
でも私はそんなことは知らず、また、映画の公式サイトの登場人物紹介で、トランスジェンダー男性だと明記されていたことも知らずに、まっさらな状態で観たので、優しく穏やかな安吾の静かなる苦しみが少しずつ明かされていく展開に胸が苦しくなりました。
そして、それを分かった上での2回目、3回目の鑑賞では、彼の一つ一つの造作や優しく温かいセリフをより深く味わい、さらに胸が苦しくなりました。

一番心に残ったのは、初めて貴瑚に会った時に彼女の置かれた状況を知って言った
家族は呪いになるんだよ」と言う言葉。

貴瑚と母、少年と母、安吾と母、血の繋がりのある家族。
キナコとアンさんと美晴、キナコの祖母と周りの人たちのように、血の繋がりはないけど、家族のように繋がり、一緒に笑い、一緒に生きていく人たち。

人は家族の愛を受け、与え、支えあえるはず、なのだけど、時にその家族が家族を傷つけ、命まで危ぶむことも。
逆に血のつながりや法的なつながりがなくても、心を支え、命を救う存在もある。
どんな存在でも「呪い」になったら、離れていいんだよ、というアンさんの言葉、アンさん自身のこれまでの想いが込められた言葉だったんだと、後で分かってくるのです。だから、初っ端なのに、飲み屋でのシーンなのに、涙しちゃうのです。


ともあれ、「お仕事」で出会った作品が、「推しごと」になって、公式SNSをフォローし、絶対に劇場で観るぞ!という思いは募らせ、CMが流れ始めて、テレビで花ちゃんや志尊くんが告知で出演し始め、とうとう公開!!
待ってました!!

まだ公開したばかりなので、詳しく書くつもりはないのですが、、本当は熱く語りたい!(笑)

初めての舞台挨拶

「障害者割引で観れるけど定価のムビチケカードを買って記念に残そうかな」とまで思うほどの私の激推しな気持ちが伝わったのか、ダメ元で申し込んだ「公開記念舞台挨拶付きチケット」の抽選に当たった!!

マジかぁ〜。

人生初の舞台挨拶をこの作品で見れるなんて!
それだけでも幸せなのに、さらに欲張ってしまって、登壇者の話を音声認識字幕でしっかり聞きたい!ということで直前までいろいろな方に動いていただいちゃいました。

結果、開催まで時間もなく、しっかりとした音声認識のセッティングまでは叶いませんでしたが、自席でスマホを使って認識させること、そして場内でのスマホ利用についてきちんとアナウンスしてくださる、ということになりました。
配給会社GAGA、TOHOシネマズ六本木ヒルズの関係者様、そしてMASC(NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター)のKさん、Tさん、本当にありがとうございました!

で、行ってきましたよ、六本木ヒルズ。

全席指定の満席の会場、両隣の方に「犬は大丈夫?」と確認してから着席。
乗り換えありの電車での移動で、お疲れチャンプは寝る気満々。
重低音の響きやクジラの鳴き声にも微動だせず、爆睡!
グッジョブ!

私はXREALでの鑑賞も3回目となり、余裕、余裕。
で、上映開始。パソコンの画面とは違う、でっかいスクリーンに圧倒。

そして、、、ストーリーもセリフも分かっているのに、、いや、分かっているからこその涙が序盤から溢れて、何度も字幕メガネが曇ってしまいました。
もちろん両隣の方も涙を拭ってました。
ほんと、どの俳優さんたちも素晴らしい👍

で、鑑賞後にいよいよの舞台挨拶。

ここからは撮影できないので、その姿やお話をしっかりと目に焼き付けたかった。

が、残念ながら、自席でのスマホのマイクでは、udトークで「遠くの声」に設定しても、認識があまりよくなくて、急遽、BluetoothマイクWT01を接続、前の席の背もたれな上にマイクを前方に向けておいたら、少しだけ改善。
でも、
・どんな気持ちで演じてたか
・撮影中での秘話
みたいなことを話していたのはなんとなーく理解できたくらい。

帰宅後、別の回の舞台挨拶のトークノーカットYouTubeで確認。

どうやら、次の回では志尊くんへのバースデーサプライズがあったみたい。また、私たちは上映後の舞台挨拶だったので、内容に触れる話があったように断片的ながら読み取れたのですが、次の回は上映前なので、質問や話が微妙にちがう感じ。だから、正確には自分の参加してた舞台挨拶の内容は分からないってことになります。

正直なところ、せっかく抽選にも当たり、他の方と同じようにお金も払って、わざわざ遠い映画館まで出掛け行ったのに、生で話が聞けず、後で動画を見る、、ってそれじゃあまり意味なくない?なんか悔しいな、と思ったりもします。
でも、スクリーンの中の人たちが目の前で動き、自分の口で作品への想いを語っているその姿を見れた、ということには価値があるのかな?と自分に言い聞かせるしかない、、。

とはいえ、舞台「ジョン王」を見た時も、「少し前まで「鎌倉殿」でテレビの中にいた小栗旬さんが目の前で動いてるー」って思ったけれど、今回は今まさにスクリーンの中から感動を届けてくれた人たちが目の前にいるってことだけはすごい感動でした。

素敵な俳優さんたち

志尊淳くんは映画『走れ!T校バスケット部』からのお気に入り。

遠目に見てもお顔がちっちゃくて、全身が顔何個分?何等身?って感じ。モデルさんオーラ溢れまくりでした。
今回の安吾役は、ドラマ『フェルマーの料理』の時の金髪カイのグイグイいく感じとは全く違う、複雑で重い役でしたが、「命をかけて演じた」との言葉に、会場に多くいた志尊くんファンクラブの方達と一緒に大きく頷いてしまいました。とにかく、かっけー!!


杉咲花ちゃんは、映画『青くて痛くて脆い』がちょっと合わなくて、ちょっぴり苦手に思っていたのですが、ドラマ『恋です!ヤンキー君と白杖ガール』からお気に入りに。キラキラした感じではないのだけど(失礼!)すごくいい演技をされる俳優さんだなぁ、と思います。何かを心の奥に秘めた役がぴったりですね。映画『市子』見逃しちゃって残念。

小野花梨ちゃんはドラマ『親バカ青春白書』そして『初恋、ざらり』で注目!今回も明るくて、監督さんが求めたように「太陽みたいな」美晴にぴったりでした。トークも可愛かった!

宮沢氷魚さんは、予定を調整して急遽、駆けつけてくださったとか。映画の中ではマジ嫌な役で、舞台に立ってても居心地悪いんじゃないか、と心配になってしまいました。でも彼(の役)の言動はまさに今の世の中を表してるんじゃないかと。今回の主税の立場と対極でもある映画『エゴイスト』を改めて観てみようと思いました。

ムシと呼ばれたいっくん役の桑名桃李くんは映画初出演。声を出さない役だからこその表情とかで表す難しい演技でした。まだ声変わりもしてない可愛さ。何より、ステージ上で、他の人はカメラや視線を考えて前を向いているのですが、彼は横に並ぶ話をしている人の方に体ごと向いて話を聞いているのが初々しく…。
「人の話は、ちゃんと顔を見て聞きましょう」って言われて育ってるんだな、うん、良い子だ!と、謎の母親目線(笑)

そして成島監督。
なぜか監督の言葉が一番認識率が良かったので、お話がかなり伝わりました。
今、原作のある作品の映像化での、原作との違いや対立みたいなことが話題になっているからかもしれませんが、監督として、原作のこういうところを大事に描きたかった、原作にない部分はこういう想いで描いた、ということを話しておられました(たぶん)
そういう作り手の、原作へのレスペクトや想いが伝われば原作者も原作のファンも、原作と映画をそれぞれ大切に楽しめるのではないかな、と。
よみうりオンラインでは原作者の町田そのこさんへのインタビュー記事がありました。

今さら、と思わず、ここで改めて原作を読もうと思った私です。

舞台挨拶に立たなかった俳優さんたちの演技もすごかったです。
真飛聖さんや西野七瀬さんは、元タカラジェンヌやアイドルのイメージを壊しちゃんじゃないか?っていうくらいの役だったし、金子大地さんは私の中ではいつまでも頼家(「鎌倉殿の13人」)や「育休刑事(デカ)」なんだけど、やっぱイケメンだし、余貴美子さんも、私の中ではドラマ『愛してると言ってくれ』なんだけど、髪振り乱しての演技がすごい。倍賞美津子さんは、映画「糸」の時と同じように、ちょっとのシーンでの存在感が凄すぎ。
こう並べてみると、好きな俳優さんばかりだなぁ。それも、染み入っちゃった理由の一つかも。

ビックリなご縁

最近は作品の裏話や関係者の話などがSNSで紹介されることが多く、映画を見に行ってもプログラムを購入することはあまりなくなっています。
でも、今回は 購入!

もちろん、永久保存したい!っていうくらい気に入った作品なので元々購入するつもりではいました。
でも今回はもう一つ、理由が、、。
自分のSNSでもこの作品を推す投稿をしていた私ですが、大学時代の友人が続けて、この作品のことを投稿していて、大学の先輩がプログラムにコラムを書いていらっしゃることを知ったからなのです。

社会福祉学科だったので、先輩後輩友人の多くがソーシャルワーカーになっているのですが、ある友人のサークルの先輩でもあり、たくさんの著書を出されている加藤雅江さん。
直接お目にかかったことはありませんが、こんな素敵なコラムを書かれた方が先輩だなんて!
なんだか、勝手に誇らしくて胸を張ってしまいました。
私が学び、友人の多くが従事しているソーシャルワーカーはまさにこの映画のように、誰にも聞こえないところで孤独に鳴いているクジラたちの声に耳を傾ける仕事だと思います。
その前線にいる先輩や友人たちを心から尊敬しちゃいます。
そして、今、補助犬の育成や認定においても、「専門職」の関わりの必要性が注目され、ソーシャルワーカーにも果たせる役割があるのでは?ということが俎上に載せられています。
先輩のコラムに刺激され、私にも何かできることがあるかな?私の資格と障害当事者や補助犬ユーザーとしての経験が誰かの役に立てばいいな、という思いも強くなったのでした。

まとめ

ネタバレをしないため、なんとなく、映画のレビューというより、舞台挨拶のレビューみたいになりましたが、、、。

決して明るい話でもハッピーエンドなお話でもないけれど、でも、これはきっと現実にも起きていること。
この世界の片隅どころか、実はあちこちで起きているということを知り、何もできないことを悔しく思ったり、何かできるんじゃないか、と思ったり、そして小さなことから動いてみたり。

アンさんの声は届かなかったけれど、アンさんはキナコの声を聴いて命を繋ぎ、そのキナコがイトシの声を聴いて、命を繋ぎ、そして、この映画を見た人たちも、現実の世界で声をあげている存在に気づき、思いを寄せる、、、そんなバトンがつながっていったら、きっとアンさんも喜んでくれるんじゃないかな。

とりま、Blu-rayになったら買って永久保存したいから字幕付きにしてほしい(特典映像も)
でもその前に、きっともう一度、劇場に足を運ぶ予感。
セリフもほとんど頭に入ったし、次は字幕メガネをかけずに、映像をしっかりと隅から隅まで味わってみようかな。
(それと、音声ガイドを字幕で見てみたいな。どんふうに情景を説明してるのか、知りたいし)

ということで、よい映画でしたので、皆様も是非!

映画『52ヘルツのクジラたち』
監督:成島出
原作:町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)
脚本:龍居由佳里
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年3月1日
上映時間:135分

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
聞こえない私ですが、字幕メガネやCC字幕で、劇場、配信での鑑賞を楽しんでいることが伝わったら嬉しいです。

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