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人生を変えた一冊『しずけさとユーモアを』

まだ30の手前にして人生が変わったなんて言うのも烏滸がましいし、その結果はむしろこれから出てくるからなんとも言えないのだけど、読書体験の中で確実にターニングポイントとなった一冊はいくつかある。

人生の意義を問い始めた本。

今までで一番、繰り返し読んだ本。

旧漢字も平気で読めるようになった本。

文学の価値に気づいた本。


いくつもの印象的な本との出会いを繰り返してきた中で、僕にとって何故この『しずけさとユーモアを』が人生を変えた一冊たりえるのか。

それは、自分にとって「理性の読書」から「感性の読書」に切り替えてくれた本だからに他ならない。

今まで読んできた本はどれも「先人が辿り着いた崇高な答え」を武器として授かるような本で、その程度こそ違えど、方向性は直線上に綺麗に並ぶ本だった。僕にとってそれらは手っ取り早く分かりやすく、「嫌味な大人にノーと言わせないための武装」だったり、「若いからって侮られないようにいち早くその先の真理に到達できる本」だったりした。

僕にとっての理性の読書は誰かや何かからの襲撃に備えて、武装するためにする読書だった。

でも、この『しずけさとユーモアを』は違った。センジュ出版という出版社の社長であり、自ら編集者を務める吉満明子さんという方は、本でも、びっくりするくらい、かっこつけない。

優しく、弱く、等身大で、自ら武装解除するみたいに本を書く。それが当時の僕には意外で、不思議で、でも逆にかっこよく見えた。文章を読んでいるのに、気になるのは自分の感覚だったり、目を背けていた感情だったり、小さい頃好きだったもの。土の匂い、草の匂い、走り回る感覚を身体が思い出す。読むほどに温かな空気感みたいなのが伝わってくる本だ。

そうか、取り繕わなくて良いのか。いったい何と戦っていたんだろう。

読みながらそんなことに気づいた。知識として何かを得て、読めば読むほど重くなるのが読書かと思っていたけど、吉満さんの本は読んだ後が軽やかだった。

生きていれば上手くいかないこともある。悲しみに立ち止まることも、うずくまることもある、それを繕わなくて良い。そんなあり方があることを初めて知った。少年漫画の主人公やヒーロー達が、自分の弱さに直面して、それを受け止めることでまた一段強くなる。あれって本当だったんだなって気づいた。

弱さとやさしさ、強さときびしさ。

コインの片面だけ削ぎ落とすような真似は出来ない。僕にとって理性の読書が『しずけさとユーモアを』に出会わせてくれたのもまた確かである。振り子は振りきれないと、反対側に向かえない。理性だけでは優しくないし、感性だけでは地に足が付かない。そんなバランスの変曲点を意識したのはこの本及びセンジュ出版の本達に出会ったからだろう。

この本に出会った後僕は、大学時代からの友人に勧められたヨガに通い始め(最近はある目的があってそれを達成するまでは行かないことにしている)、発酵の世界に出会い、農業を始め、自分の感性に従うままよく分からない方向に突き進んでいる。

これこそ、人生を変えられつつある手応えと言っても良いのではないだろうか。結果がどうなるかは分からない。自分にも分からない。


それでいいんだなと、今は心から思える。


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