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及川美紀さんが選ぶ「次世代に伝えたい5冊」

 第2回「bookwill 小さな読書会」(2023年4月25日開催)では、ゲストキュレーターのポーラ社長・及川美紀さんによる「次世代に伝えたい5冊」の厳選タイトルも紹介されました。1冊目は、課題図書となった「おんなのことば/倚りかからず」。その他、4冊を推薦コメントと共に、ここにシェアします。本でつながるシスターフッドを、あなたへ。
(本の実物は、蔵前のブックアトリエ「bookwill」の本棚にも並べています)



 
『歌集 まだまだです』(カン・ハンナ著、KADOKAWA)
 詩と同様に、短文で思いを凝縮させて伝える表現である短歌の世界にも惹かれます。自分の心の中に生まれた素直な感情を、余分な情報を極限まで削って表す「31文字の宇宙」。著者のハンナちゃんは友人であり、私に短歌を教えてくれる“先生”でもあります。
 2011年に来日し、努力を重ねて大学の博士課程を修了し、ついにはNHKの短歌講座を受け持つまでに。母国語ではない日本語の文化に精通するまでの努力も素晴らしい。日韓のカルチャーを行き来する彼女特有の経験に基づく短歌の世界は、唯一無二の魅力があります。
 社長として「いかに短い言葉で、多くの人々の心に響かせるか」を追求する場面の多い私にとって、示唆に富む参考書です。


 
『存在しない女たち』(キャロライン・クリアド=ペレス著、河出書房新社)
 カバー帯にブレイディみかこさんのお名前を見て衝動買い。タイトルのとおり、どれだけ社会の歴史から女性の存在が消されてきたかが分かる本です。「女は話が長いと言われるが、統計を取ってみたら実は男性のほうが話が長かった」など、アンコンシャス・バイアスを鮮やかに覆すファクトが豊富に紹介されています。女性が次の一歩を踏み出すために、知識のインストールは重要なのだなとあらためて。


『流れる星は生きている』(藤原てい著、中公文庫)
 この本を買ったのは、30数年前。私が新入社員だった頃に、藤原ていさんの講演会を聴く機会に恵まれたのです。(作家で気象学者の)新田次郎さんの奥さんである著者が、戦時中に渡った満州新京から命からがら子ども3人を連れて日本に引き揚げ、戦後の混沌を生き抜く姿を赤裸々に描いたノンフィクションです。子どもたちを守るために、時には物乞いをしたり、誰かを見捨てたりしなくてはならなかったという壮絶な記録に、世間知らずだった20代の私は衝撃を受けました。
「世の中には、これほど壮絶な体験をした人がいたことを一生覚えておこう」という思いで、著書を買ったことを覚えています。戦争を経験した人の強さと、戦争は絶対にやってはいけないのだという教えを、胸に刻み込みました。
 


『兎の眼』(灰谷健次郎著、角川文庫)
 同じ本でも、読む時期を変えると読み方がまったく変わることがあります。私にとって『兎の眼』はそんな複層的な体験ができる1冊です。
 一番最初に読んだのは小学生の頃。たしか夏休みの課題図書だったと思います。当時は、「友達や先生っていろいろなタイプがいるんだな」という感じの群像劇としての楽しみ方をしていました。ところが50代になって読むと、印象がガラリと一変。「1人の女の自立の物語」として楽しめたんです。
 大学を卒業したての若い先生が、いろいろな問題を抱える子どもたちや、教育に対して無関心な同僚の中で揉まれながら内面の変化を遂げていく自立と成長の物語なのだなと。「最後はきっと、夫と別れるんじゃないかな」なんて勝手に想像もしつつ(笑)。

 そんな印象の変化を面白がりながら、ふと思ったことが一つあります。『兎の眼』が書かれたのは1974年。さて50年経った今、日本の女性たちの環境はどれほど進化したのでしょうか。この小説は時代劇か現代劇か? 私たちに課されたテーマですね。


まとめ/宮本恵理子