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レティシア書房店長日誌

絵本「100年生きられた家」原画展

 千葉県市川市にある古い家は、住宅地の奥の奥、路地どまりに建っています。ほとんどの人がたどり着けない(?)という絵画と古本とカフェ「アトリエ・ローゼンホルツ」。その家の前身である、大正12年から昭和50年まで「第二大正湯」という銭湯が絵本になりました。「100年生きられた家」(あきのかなこ絵/さとうまり作/ 3000円)です。


 「古い家にはお手伝い妖精のブラウニーとお掃除妖精シルキーが住んでいる」という話があるそうなのですが、元「第二大正湯」の絵本にも妖精が住み込みで働いているようです。名前はぐっと和風で、茶助さんとお絹さん。この二人を、絵本のページをめくる度に探すのも楽しみです。絵本に登場する人たちは、あなたが知っている本の中から現れ出た誰かの姿も。宮沢賢治の物語がぎっしり詰まったページには、賢治さん自身が顕微鏡を覗いていたり、レティシア書房古本市(コロナまで毎年開催してました)の常連さんの石英書房さんの姿も見つけました。他のページには白洲正子さんや赤毛のアンさんもいらっしゃるとか。(探してみてください)
 絵画を鑑賞する際、全体をつかむために少し引いて見ることがありますが、この原画はそれができません。どんどん近づいていって、そのうち絵の中に取り込まれて、100歳の家を見回し、古い家の匂いを嗅ぎ、一緒にご飯を食べる破目になります。そう、このご飯を食べる場面がまたスゴい。料理が部屋中に並んで、数えきれない妖精たちが、ペチャクチャおしゃべりをしています。(声が聞こえてきそう)
 紙面の端から端までぎっしり人や物が描き込まれていて、白く抜けているところはありません。その密度の濃さに当初は唖然としましたが、そのうち私自身が、この家の隅っこに座り込んでしまっている感じになりました。
 イラストを描いたあきのかなこさんは、目で得た情報全てを写し取る迫力満点の筆致で、さらには他の人には見えない妖精まで描き切ってしまいました。(スゴイ!!)一方、作者のさとうまりさんは、元「第二大正湯」に嫁いだ方(結婚した時にはもう廃業していた)で、手付かずになっていた家を古本カフェにしました。さとうさんの、子どもや子どもだった大人に語りかける文が、饒舌な絵本をやさしくつつんでくれます。そして、銭湯がどんな風だったかを、当時下宿していた水彩画家の松波照慶さんに、この本を作る前に描き起こしてもらったそうで、今回そのスケッチも展示しています。


 さとうさんのいつか絵本を作りたいという夢、銭湯を思い出しながら描いた画家の絵、さとうさんが奇跡的に出会ったというあきのかなこさんのイラスト。それらが、世の中が静止したコロナ禍の下、宝物のような時間を与えられて一つになって、とうとう絵本が出来上がりました。100年生き永らえた家と、今生きている人と、銭湯だった家に住み着いた妖精たちが織りなす絵本の原画展です。どうぞお楽しみくださいませ。絵本の他に、あきのかなこさんのポストカード(150円)、第二大正湯の手ぬぐい(1500円)、カレンダー(1600円)などを販売しております。(女房)


アトリエローゼンホルツ

「100年生きられた家  絵本の旅先」展
 1月10日(水)〜21日(日) 月火定休 13:00〜19:00
●レティシア書房ギャラリー案内
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)

 

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