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レティシア書房店長日誌

カラサキアユミ「古本乙女、母になる」

 「最近の私は子育ての合間をぬって古本カルタなるものをチマチマと制作している。勿論、将来我が子と遊ぶ為である。きっと古本英才教育の教材として大活躍するであろうその日を夢見て日々手を動かしている。」
古本カルタとは、例えばこんな感じです。
「あ あの時に買えば良かったという後悔」
「お お気に入りの本はダブリでも買う」
「せ せめてあと五分だけ........同伴者への常套句」
「そ そうしてまた増えていく古本タワー」
 著者のカラサキアユミさんは福岡生まれ。奈良大学を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」で働きます。古本を買うことが大好きで、2018年、その思いを描いた「古本乙女の日々是口実」を出版。2021年に第一子を出産、子育てに追われた生活が始まります。それでも古本への愛は変わることなく、何とか時間を工面して古本市へ出かけようと算段する様が、本書「古本乙女、母になる」(新刊2200円)に描かれています。

 彼女は二度の流産を経て、妊娠しました。
「最初は悲しみに打ちひしがれてはいたが、そんな時こそ古本趣味が心の支えになってくれた。とにかく、これまで以上に本を探して買って読んで……..それらを熱中して繰り返していく内に停滞していた思考が開けていく感覚を味わえた。」
「初めての子育ては予想をはるかに上回るハードさで、人生でこんなに死に物狂いで頑張る機会はきっともう後にも先にも今しかないだろうと思いながら生まれて間もない息子とがむしゃらに向き合った。」そんな渦中でも、息抜きにネットで古本を買っていたとのこと。
 子供をあやしながらの、あるいは夫に留守を頼んでの古本市直行の日々がユーモアとペーソスと、そして古本への愛情と我が子への愛情を適度にブレンドさせながら本書は進んでいきます。
 とある日。場所はブックオフ。著者は店内で赤ちゃん連れのお母さんを見つけました。
「やがてぐずり始めた赤ちゃんの背中をポンポンと優しく叩きあやしながら、それでも諦めずに棚を凝視している必死なお母さんにすっかり自分の姿を重ねてしまった。休日とあって店内はそこそこの混雑具合。同じ通路で本を吟味する男性客達の視線が親子に注がれる。それと同時に気が気でない彼女の焦りがこちらまでヒシヒシと伝わってきた。こういう時、周囲があえて何も反応しないのが本人にとって一番気がラクなのだ。『大丈夫! ここにいる全員も赤ん坊の頃泣きまくっていたんだから!どうか貴女の古本時間が実りあるものになりますように。』心の声でエールを送り自分は黙々と漁書作業を楽しんだのだった。」

 かつて、古本市で小さな子供連れのお母さんを、いかにもうっとおしそうに見ていたおじさんを見かけました。きっと、著者もそんな視線にさらされてきたのでしょうね。子育てをしながら、好きな趣味を続けるお母さんへの応援歌みたいな本です。
 4コマ漫画「古本乙女の子連れ古本者あるある(?)劇場」も収録されています。

●レティシア書房ギャラリー案内
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜2/24(日)北岡広子銅版画展

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