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レティシア書房日記

ひらいめぐみ「転職ばっかりうまくなる」
 
 最近めったやたらと面白い本を連発している百万年書房から、またユニークな本が出ました。ひらいめぐみ著「転職ばっかりうまくなる」(新刊
1760円)です。
 著者は20代で転職6回を繰り返して、「圧倒的成長をしたくない人」のために書いた仕事論を書きました。これから社会に出る人、仕事ってつまんねぇ!と思っている人、あるいは今時の若者は忍耐力がないとお嘆きの経営者の皆様にお進めしたい本。

「夢を持つのは、いいことだ。それは認めよう。だけど、夢がない人生だって、別になにも悪くない。おおきな仕事の悩みはなく、休みの日にはゆったりと映画を観たり漫画を読んだり好きなことをして過ごし、軽やかな気分でまた次の朝に出勤する。お金がいつもないことを除けば、たのしい人生だ。やるべきことをやり、楽しく過ごせるなら、それがいちばんいいではないか。苦労を重ねて夢をつかむ過程は、周囲からしたら輝かしい人生の一部に映るかもしれないが、誰かに見せるために生きているわけではないのだ。夢を持つのも、持たないのも、自分が決めることなのだから。」
そうですよね、何かと言えば、夢を持とう!と言われることに違和感を持っていたので、この文章に出会った時に、拍手したくなりました。
 著者は、倉庫でバイト→営業職→webマーケテイング→書店スタッフ→事務職→編集→そしてフリーランスと転職していきます。その途中で、心身を壊したり、血尿を出したりと散々な体験を重ねていきます。そして、「辞めたくなったら辞める」というのが転職のポイントだという考えに到達するのです。
 彼女はコンゴの支援活動をずっとしていました。面接で「経済活動の中で社会をよりよくしていきたい」と発言したところ、面接担当のおじさんが鼻で笑いながら、「世の中ねえ、そんなに甘くないんだよ」と言うのです。
「絶句だった。世の中がそんなに甘いと、アンタが困るだけでしょうが。初対面の人に対して、こんなに頭に血が上ったのは初めてである。」
 彼女は、言い返したら、このおじさんと同じランクの人間になってしまうと、黙って面接会場を後にしたそうです。賢明なやり方です。こんな親父はまだまだどこにでも生息しているんでしょうね。
 仕事は長く続けることこそ至上命題という古臭い価値観に縛られることなく、著者は自分のことを深く探していきます。
「『転職をする』ということは、言わば『これまでの肩書きを捨てる』行為だ。倉庫のバイトから大手企業の正社員に転職したとき、倉庫が並ぶ川沿いのまちで、昼休みは川に行き、帰りはアイスを食べながらぶらぶら歩いていた日常が、ある日を境にオフィスカジュアルの服にパンプスで高層ビルに囲まれたオフィス街を駆け抜ける生活に一変した。自分で選んだことだ。自分が望んことだ。でも、どちらも同じ自分だったはずが、背負わされる肩書きが変わっただけで、自分自身まで別人になってしまったようだった。ひょっとすると、いくつもの肩書きを捨てることで、自分がなにをしても自分であることを、たしかめたかったのかもしれない。」
「自分自身を極める」ための長い旅を綴った本でした。

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