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レティシア書房店長日誌

梨木香歩「鳥と雲と薬草袋」

 「地名」を巡るエッセイ集です。(古書/800円)
「この葉篇集(掌篇よりはかなげなこの『葉篇』という言葉は、ある方の造語である)は、2011年から2012年にかけて西日本新聞で連載されたものである。文字通り葉っぱが降り積むように、これまでの生涯で縁のあった土地の名を重ねていく連載にしようと思った。地名、というものが、単なる記号以上のものを意味しているということは、常々感じていたことだったので、連載の緩い括りとしてのテーマを考えるように言われたとき、これならなんとか続くのではないかと思いついたのであった。」と、著者はあとがきで述べています。「単なる記号以上のものを意味している」地名を中心に据えて、その土地の記憶を掘り起こしてゆきます。

 著者は滋賀県に住んでいたこともあり、京都に関する所も出てきます。例えば、京都、東山三条に「蹴上(けあげ)」という地名について。
「『蹴上』の語源は、奥州へ旅立つ源義経にまつわる伝説かららしい。ある武士の馬の蹴り上げた泥が義経の衣服にかかった。怒った義経が、その武士と従者の一行九人を惨殺した、というのである。なんと短気な、と呆れるが、本当だとしたらよほどの事情があったのだろうか。後の世の作り話だとしたら、物語を欲する人の想像力は凄いものである。」なお、義経が血のついた刀を洗ったという血洗町(ちあらいちょう)は、今も存在にしています。
 本書には49の土地が登場します。それぞれの土地には、その土地の歴史があり、それを知ると行ってみたいなぁと思えてきます。そういう意味では旅行案内書と言ってもいいかもしれません。著者のそれぞれの場所を慈しむような文章を読んでいると、ふわりと心が広がっていくような感覚に陥ります。装画・挿画を西淑が描いていて、それが控えめに旅情をかき立ててくれます。
 もうひとつ京都関連を。京都北部に広がる「京北町」は有名な北山杉の産地であり、「初夏に訪れると、それこそホトトスギの『テッペンカケタカ』が辺りに響き渡り、熊が出ることでも有名な山奥」と著者がいうような場所です。私も友人が住んでいたので何度か行った記憶があるのですが、深い山が連なっている所です。著者が京都の地図を見ていた時、京北町があるべき場所に名前がないのです。そこには「京都市右京区」と表記されていました。調べてみると、京北町は右京区に合併していて2005年に消滅していたのです。そういう場所の変遷も何度も登場します。長い時間の果てに地名が変わってゆく寂しさも含めて、日々、なんとなく眺めていた地名に、ちょっと目を止めてしまいます。


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