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レティシア書房店長日誌

パリュスあや子「パリと本屋さん」

 「『Amazonでも近所の本屋でも買えるなら、顔が見える本屋で買う』という『買い支える文化』が、フランスには根付いているように感じるのだ」
というのが、「パリと本屋さん」(新刊/H.A.B2145円)の著者でフランス在住の、パリュスあや子の印象です。

 著者は、東京芸大映像研究家で脚本を学び、映画の脚本家として作品を送り出す一方で、作家としても活動し、2019年「隣人X」で小説現代長編新人賞を受賞しています。現在フランス人の夫とパリに住んでいます。本書は、彼女が素敵だなぁと思った書店をめぐり、その魅力を伝えるエッセイ集です。
 「パリにいると、日本にいたときよりも本を読んでいる人をよく目にする。電車で、カフェで………..日本でも携帯やタブレットから電子書籍を読む人は増えているが、フランス人は昔ながらの紙媒体の『本』というモノ自体への愛着が強いと聞く。美意識の問題でもあるだろう。少々値段は高くても、美しい装丁や紙の質感を楽しみ、それを所有する。読む、という体験だけではない。本を巡るトータルの楽しみなのだ。本がプレゼントとして選ばれることの多さからもそれを感じる。」
 ここに登場する書店は、すべて店舗の写真入りで紹介されています。写真と彼女の文章を一緒に味わうことで、その書店の魅力が伝わってきます。どの店舗の店構えも素敵です。パリを歩く気分で、ちょっと覗いてみようかなと思ってしまいます。
 カルチエ・ラタンにあるパリで最も古いゲイ専門店「Les Mots a Bouche」。著者は一瞬躊躇するのですが、入ってみると「明るくオシャレな雑貨屋さんのような雰囲気」だったと言います。「専門書店でありながら、はっきりとしたお目当のの本を探しに来た人も、ふらりと遊びに来た人も、垣根なく迎え入れて満足させてくれるというのはすごいことだと思う。それが街の中心部に存在し続けているというのなら、なおさらだ。」と、この店の印象を締めくくっています。
 日本のフリーペーパーや、数百円で買えるミニプレスのことについて、面白い指摘がありました。
「日本ではなぜこれほど至る所に、利益を求めない素敵な活字が溢れているのだろう。フランスに比べると、印刷物の安さや識字率の高さが理由のひとつかもしれないが、それだけでない気がする。無料ではなく数百円という値段が付いていたとしても、実際には利益度外視で情熱に突き動かされて作っているとしか考えられないものが多い。『実はちょっとすごい文化だぞ』と密かに興奮したのだった。」ミニプレスを数多く扱っている店としては、みんな楽しそうだ!ということに尽きます。
 ふっと入った本屋で、手にした本にドキドキしたり、お!いいねぇとニンマリしたことのある方には、ぜひご一読をお勧めしたいです。いい本です。
📕初回特典:「パリと本屋さん特別編 パスポートと短歌」が付いています

●ギャラリー案内
11/15(水)〜26(日)「風展2023・いつもひつじと」(フェルト・毛糸)
11/29(水)〜 12/10(日)「中村ちとせ銅版画展」
12/13(水)〜 24(日)「加藤ますみZUS作品展」(フェルト)
12/26(火)〜 1/7(日)「平山奈美作品展」(木版画)

●年始年末営業後案内
年内は28日(木)まで *なお26日(火)は営業いたします。
年始は1月5日(金)より通常営業いたします。
 

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