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レティシア書房店長日誌

久住昌之&谷口ジロー「散歩もの」

 久住が原作を書いて、それを漫画に起こすのが谷口、このコンビは「孤独のグルメ」が有名ですが、本作「散歩もの」(古書800円)は、二人が再び組んだ作品です。谷口は好きな漫画家の一人で、1991年に発表した「犬を飼う」をはじめ、かなり読んできたと思います。ハードボイルド、冒険、SFと多様なジャンルの作品を発表していますが、小さな町に生きる人々の喜怒哀感を淡々と描いた作品が好きです。

 文具メーカー勤務のサラリーマン上野原が、仕事中や休日に歩いた都内の、例えば北品川、目白、吉祥寺、井の頭公園などの風景、昔からやっているお店の様子や、街の雰囲気や、ふと目にとまった出来事を淡々と描くだけの漫画です。
 久住が、あとがきで散歩についてこう書いています。「散歩の極意は、ゆっくりと歩くこと。用事で急いでいては見えないものがどんどん見えてくる。普段聞こえない音が聴こえ、わずかな匂いが鼻を刺激し、遠い記憶を呼び起こす。」そして谷口は、街を通り抜ける風の音、ラーメン屋の匂い、犬の鳴き声などを見事に漫画の中に蘇らせていきます。第7話「ハーモニカ横町」では、主人公が足を踏み入れた吉祥寺の路地で、「あちこちに 古い時間が止まったまま息づいている」 「昔はこういう路地が いろんな街にあって 子供達が怖がる何ものかが そこここに潜んでいたんだ」 「この複雑な電線 重なる軒 なしくずし的にこんなんなっちゃてるゴチャゴチャ感が なぜか心地いい」と呟きます。
 目的も持たずふらりと、時間に縛られることなく、町を右へ左へ自由に歩く楽しさに満ち溢れています。なお、この漫画は一般の漫画雑誌ではなく、コアなファンを持つ通販雑誌「通販生活」に掲載されていました。谷口ジローは2017年に69歳で亡くなりました。このひとの”地味”テイストの作品がもう読めないのはとても寂しいです......。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」



⭐️入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)

410視点の見本帳


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