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レティシア書房店長日誌

友田とん

「ナンセンスな問い」
「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する」を持ってこられたのが、友田とんさんとのお付き合いの始まりでした。その後、続編も出されユニークな面白さにファンが増えていきました。

今回、ご紹介するのは、エッセイと小説を集めた「ナンセンスな問い」(H.A.B2200円)です。
「ナンセンスな問いに私は駆り立てられる。そこには意味など何もないし、問うたところで社会が変わるというようなものではない。しかし、しばしば当然と思っているところに風穴を空けてくれることがある。問わなければ気づきもしなかったことが、初めて目に留まる。いつもの日常がちょっと違って見えてくる。世界が可笑しさに満ちてくる。」
誰も何の疑問も持たない日常の些細なこと、当たり前だと思っていることに、ホンマかいな〜?とツッコミを入れるのが、この本の面白さです。なぜ水戸黄門はいつも勝つのか?を誰も考えませんが、「時々負ける水戸黄門」というフレーズが彼の頭の中を占領するのです。

屁理屈か?と言われれば、そうかもしれないような記述が散らばっていますが、なんの変哲も無い日常がちょっと違う角度から眺めることで、ふ〜ん、そうか〜と何だか可笑しくなってきたりして、リラックスできるような感覚になるのが、本書を読む効能かもしれません。

友田さんは京都出身で、実家は伏見の和菓子屋さんだそうです。まだ子供も頃の時の体験を1つのエッセイにしています。題して「本町で地下鉄をのり換えたことがある」。(本町は大阪の地下鉄の駅です)
「私は本町で地下鉄を乗り換えたことがある。そう言おうとするとそれがどうしたんやという声が聞こえてくるような気がする。確かに、わざわざいうようなことではない。あんたは関西出身やし、そんなん、なんちゅうこともないんちゃうか。そうかもしれない。だが、私は1990年の春の日曜日の午後に祖父と本町で地下鉄に乗り換えたことがある。」
だから、何なんだと怒らないでください。

「私は文学を読み、街を歩き、そして日常で見かけた可笑しなことを書き綴っている。むろん、怠惰に暮らす日もある。同じことをただ繰り返しているだけのような気もする。けれど、そのような日常を大切にしてきたことは確かだ。そして、その日常の積み重ねの先に今があるのだと思うと、日常というものの大きさを感じずにはいられない。」

「日常」を今一度、振り返る一冊になってもらえればと思います。なお、本書には付録として「裏返せと袋入りさぬきうどんは言う」というタイトルのエッセイと「切り抜くと世界が可笑しくみえる眼鏡」が付いています。
もちろん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する」も取り扱っていますので手にとってみてください。




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