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レティシア書房日誌

藤原書店編集部編「石牟礼道子と芸能」(古書/1600円)

石牟礼の代表作と言えば、水俣病患者の世界を描いた「苦海浄土」ですが、実は私はまだ全部読んでいません。しかし、「椿の海の記」や「あやとりの記」「水は海土路の宮」を読み、圧倒的な自然描写力に引き込まれました。
「石牟礼道子と芸能」と題された本書は、彼女の文学的業績を様々な方が論じ、対話するという一冊です。赤坂真理、高橋源一郎、町田康、池澤夏樹、いとうせいこう、田中優子、田口ランディ等々、好きな作家が顔を並べていたので、興味を持ちました。


高橋源一郎は、彼女の死についてこう語っています。
「石牟礼道子は私たちのこの世界にとっての萃点なんだろうと思います。それは、世界のあらゆるものとつながりがある。いま私たちの周りにあるのは、分断と断絶の言葉です。それは、萃点の思想とは正反対のものです。そうではなく森の思想、そこに行けば全てがある。全てがそこにつながるものがある。そういうものを、石牟礼さんは私たちに残してくれました。なので、悲しむことはないと思います。」
「萃点」(すいてん)とは、難しい言葉ですが、全てのものが集まる点のことだそうです。
高橋は「全てのものが、全てのことが、石牟礼道子という仮の肉体を通して生まれた言葉の中に埋め込まれています。この世界が何で、この世界がどうなっていくのかを知りたければ、石牟礼道子がつくり出した森の中へ入ればいいんだと思います。」と言っています。

彼女の代表作「苦海浄土」は、当初はルポルタージュだと誤解されましたが、一級品の小説だと池澤夏樹は断言します。
「患者さんのことばを、録音機で聞きとったわけではない。全部、彼女は一旦自分のものにしている。完全に血肉化したうえで、もういっぺん、小説の中のことばとして作りなおしている。その技術はすごいものです。」
一度、読み始めたとき、地獄のような闘病生活の描写に詩情を感じたことを覚えています。
 高橋源一郎は「苦海浄土」を改めて読んだ時に、そのことばが非常識なほど美しいと思ったと言います。「虐げられた人、弱い人、病に冒された人のことを書いて、なぜ、あのように美しいのか。それは弱い者の横に立ち止まるということを、この人はよく知っているからだという風に思ったのです。」

私が詩情を感じたのは、あながち間違いではないかもしれません。やはり「苦海浄土」は最後まで読もうと決心しました。

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