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レティシア書房店長日誌

リラ・アビレス監督「夏の終わりに願うこと」
 
 7歳の少女が大好きな父親との永遠の別れを経て、彼のいない世界で生きて行く、その瞬間を見事に描いた作品です。(メキシコ映画)

 主人公はソル。父親のトナは祖父の家で病気療養中です。父親を励ますために、おそらくこれが最後(と皆が思っている)の父の誕生日に、親戚や友人たちが祖父の家に集まってパーティを開きます。映画はその一日を捉えます。
 ソルは、パパに会える?と伯母たちに聞いて回るのですが、夜のパーティーに出るために今は休んでいると言われるばかりで、なかなか父に会えません。なんだか、おかしい...….。ソルはトナの病状が良くなくて、死んでしまうのかも、と感じ出します。
 トナの姉が、霊媒師を家に招き入れて悪霊を払おうとしたり、あるいはトナの治療費のことで兄妹がケンカをしたり、家の空気がざわついています。その様子が、まるでホームビデオを見ているように、大きな家の中をカメラが動き回り、家のあちこちで起きる事の断片を拾い集めていきます。人物だけでなく、犬や猫、庭に来る鳥や虫や、伯父がくれた金魚や、植物にも視線が向けられます。生きているものたちの生命力を画面に取り込むことで、生と死が同時に存在し、進行している事実が浮かび上がります。トナの病状は重く、付ききりの看護が必要でやむなく妻子と別れて暮らしているのですが、この大家族のワイワイガヤガヤと、死の予感がこの家を覆っています。戸惑うソルの、行き場のない孤独感を、演技未経験というナイマ・センティエスが、素直に繊細に演じています。

 痛みのために、最初はパーティーに出たくなかったトナですが、家族や介護人の支えもあって参加します。映画終盤の、庭でのパーテーィは祝祭の日の盛り上がりで、ラテンアメリカ的気質に驚かされます。にぎやかな家族の中に漂う一つの命の終わりの気配。それを鋭敏に感じ取る少女ソルの眼差しは、未知の悲しみを受け入れる準備をしているようで切ない。
 そしてラスト、トナのために作られた誕生ケーキの蝋燭を見つめるソル。揺らめく炎。カメラは、そんな姿をそっと見つめます。大好きだったトナのいない世界で生きることを受け入れたようなソルの表情がとても素敵です。
そのあとに短いけれど極めて印象的なシーンがあるのですが、そこはぜひ劇場でご覧ください。忘れられない映画になりそうです。

●レティシア書房ギャラリー案内
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色」やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)


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