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レティシア書房店長日誌

尾形亀之助「カステーラのような明るい夜」
 
 「窓ガラスを透して空が光る  何処からか風の吹く日である  窓を開けると子供の泣声が聞こえてくる  人通りのない露路に電柱が立っている」
それって、「はっぴーえんど」の詩の一部分? 松本隆さんらしい言葉だなぁ〜と思った人、残念でした。尾形亀之助の「初冬の日」という詩なのです。
 1900年宮城県に生まれ。1920年代には詩集を発行、その後も詩、評論、戯曲、随想など様々なジャンルの作品を発表しました。1942年に仙台で死去しました。

 本書「カステーラのような明るい夜」(古書1700円)を編集した奈良在住の詩人西尾勝彦は、この本を作るにあたってこう書いています。
「尾形亀之助の詩は、彼の没後も80年近くにわたってほそぼそと読み継がれてきました。今回、この詩集を編むにあたって願ったことは、作品の魅力が引き立つように、ただそれだけでした。 亀之助の詩には、『永遠の淋しさ』といったものが、ふかく含まれている気がします。 この詩集を、未知の読者、未来の人びとに捧げます。」
 編者の言う「永遠の淋しさ」が詰まった作品が数多くあります。例えば、
 「夜の雨は音をたてて降っている  外は暗いだろう  窓を開けても雨は止むまい  部屋の中は内から窓を閉ざしている」(「雨が降る」)
あるいは、
 「一日の終りに暗い夜が来る  私達は部屋の燈をともして 夜食をたべる  煙草に火をつける  私達は昼ほど快活ではなくなっている 煙草に火をつけて暗い庭先を見ているのである」(「秋日」)
 リアルな現実の一瞬を切り取ったような作品で、難しい表現やレトリックはありません。この言葉をかみしめながら想像すると、静謐な空間の中に漂う「淋しさ」が立ち上がってきます。
 私は「十二月」と言う短い作品が好きになりました。
「紅を染めた夕やけ  風と 雀  ガラスのよごれ」
これだけの言葉からなる詩です。最後の「ガラスのよごれ」が、言葉自体は単純なものですが、大きな意味合いを持って迫ってきました。
 「秋は露地を通る自転車が風になる  うす陽がさして ガラス窓の外に昼が眠っている 落葉が散らばっている」(「幻影」)最初に「はっぴーえんど」の松本隆の名前を出しましたが、この詩など、どこか通底しているような気がします。尾形亀之助の作品集は、かなり前に一度紹介しています。「美しい街」(夏葉社1760円)です。松本竣介のデッサンが入っていて、こちらも素敵な一冊です。

レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(野菜画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(著者サイン入り!)


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