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レティシア書房日記

坂本龍一「坂本図書」&YMO「Solid State Survivor」

 当店はCDの買取もしています。先日、渋いロックのCDを持ち込まれた中に、YMO「Solid State Survivor」(1200円)がありました。発売は1979年、今から44年前です。久しぶりに聞いてみましたが、全く古くなっていない!カッコいい!「TOKYO」というヴォコーダーの音声で始まる「テクノポリス」から引き込まれます。もっと無機質な音楽だと思っていたのですが、日本的情緒もあります。このバンドからもう二人も天国へ旅立ってしまったのですね。

 坂本の死後、彼の本が沢山出ましたが、インディーズ系出版社から「坂本図書」(2200円)が出版されました。2018年から22年にかけて「婦人画報」の連載「坂本図書 第1回〜第36回」から、一部加筆・更新して再編集したものです。さらに、2023年3月8日、編集者鈴木正文との対話の中で、坂本が最近読んでいる10冊の本について収録してあります。「森鴎外 近代小説集」「漱石全集第八集 行人」「日和下駄」(永井荷風)などの近代文学や、思想系の本が並んでいます。
 「坂本図書」は文学者だけでなく、今西錦司、藤原辰志、福岡伸一などの学者、さらには大島渚、黒澤明、小津安二郎、ブレッソンらの映画監督について文章を書いています。小津安二郎の章で「さまざまな映画を通して執拗に繰り返される家族のストーリーというより、コンポジション(構成)、アンビエントな画の流れ、ミニマルミュージックを聴いているような心地よい静かさ。何度見ても飽きない極上の写真集のページを繰っているようでもある」と書いています。
 今西錦司が取り上げられているのが興味深いです。坂本は、今西の「生物の世界」を「遠い昔に読んだことがある」と前置きして、ポストコロナの今を生きるには、「生命、生物とは何か」ということを、改めて考えなければならないと再読をするのですが、最後に取り上げた今西の文章が素敵です。
「今西は後年の『曼珠沙華』というエッセイで、ヒガンバナともいうその植物を取り上げて、その花は美しい花を咲かせ、花蜜も作るのに、受粉は昆虫の助けなしにやっている。ではなぜ花をつけ、蜜を作るのか、と問う。その答えが面白い。ヒガンバナは『訪ねてきたチョウのために役に立っておればそれよいのだ』、自然にも文化や芸術があるのだと。」
 無類の本好きの坂本の思索の跡がよくわかる一冊です。

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