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レティシア書房店長日記

立川直樹「I Stand Alone」(青幻舎/古書1800円)

 音楽や映画やアートのことを紹介したり、批評したりする人の文章で、最初にカッコいいなと思ったのは植草甚一でした。飄々とした雰囲気と好奇心旺盛な精神で、新しい表現をする作家たちの世界を教えてもらいました。
 そして、その次にカッコイイなぁと思った人が二人います。一人は1943年北海道生まれの今野雄二、もう一人は1949年東京生まれの立川直樹です。今野雄二は、かつて読売TVで放映されていた「11PM 」の映画コラムコーナーで、新進気鋭の映画監督を毎週紹介してくれました。この人のセンスが大好きでしたが、残念ながら2010年自死してしまいました。
 立川直樹は、セルジュ・ゲンズブール、ピエール・バルーといったフランスの新感覚のシンガー、英国のデビッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックを教えてくれた人です。
 「I Stand Alone」は西林初秋が聞き手となって、立川がこれまでの人生のこと、仕事のことを語った本です。

 彼は1964年、15歳でプロデューサーとして生きることを決め、21歳で田園コロシアムで行われたザ・タイガースのステージをプロデュースします。その後、ピエール・バルー、チェット・ベイカー、デヴィッド・ボウイ等のミュージシャンと組んだり、伊丹十三映画の音楽監督を務めたり、十八代目中村勘三郎と組むなどジャンルを横断して活動の場を広げていきました。
 「僕は汚いものが嫌いだから、役者もテレンス・スタンプとかアラン・ドロンが好きでした。アメリカの汚れた感じとかマッチョな役者、たとえばチャールズ・ブロンソンなんて、まったく興味がなかったんです。」
 中村勘三郎が初のニューヨーク公演を企画していた時、公演のポスター撮影にロックミュージシャンを主に撮っていたミック・ロックを紹介します。「勘三郎さんも閃く人だから、ロックを撮っている人、それいいかもしれないということになって、『できるの?』って聞くから『できます』って答えたんです。」勘三郎らしいエピソードです。
 立川は、本物を見抜く知性とセンスを磨くためには「音楽でも映画でも本でもそうですけど、重要なのは数なんです。選んでいる間はダメですね。数や量が質になっていくんです。」これは正しい指摘です。
 もう一つ、その通り!と思ったのが、料理店の音楽について。
「料理に音楽はいらないと思っています。食材を切ったり、焼いたり、揚げたり、皿や客の声などがいちばんのBGMなんです。」そうなんですね、平気でジャズの有線放送を流している店が多いのですが、選ばないと雑音になりかねません。当店でも、本屋なりに選んで音楽は流しているつもりです。
 自由に、多彩なフィールドで、まるで遊ぶように仕事を続ける立川直樹って、今なおカッコイイ人だと思います。


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