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レティシア書房店長日誌

若松英輔「いのちの秘義」

 この写真は、樹齢1000年の木です。平安時代藤原氏が権力闘争をしていた(?)頃から生息したことになるでしょうか。北海道は釧路鶴居村にあるロッジ「ヒッコリーウインド」オーナーであり、ネイチャーガイドの安藤誠さんに、この夏連れていってもらった原生林にありました。深い深い谷の奥、人の気配は全くありません。車から降りて行ける所まで近づいた時、湧き上がるような感覚が身体を支配しました。人知を超えた大きな存在を目にした時の、そのものへの畏怖の念。一体どうやってここまで生き残ってきたのか。
 ちょっと前に、レイチェル・カーソンの名作「センス・オブ・ワンダー」を改めて読み解く、若松英輔著「いのちの秘義」(新刊1650円)を読みました。

「『センス・オブ・ワンダー』は、大きなよろこびの経験であり、人間を超えた神々と共にあり、沈黙を強いる出来事でもあり、哲学的現象でもある。つまり、私たちを深い感動と思索に導くものであるということ」と著者は説明してくれます。なるほど、あの巨木を目の前にした時、感じたものはこれだったのかもしれません。
 レイチェル・カーソンは環境問題を扱った「沈黙の春」で有名ですが、私は「センス・オブ・ワンダー」をおすすめします。「センス・オブ・ワンダー」は、レイチェルの姪の息子のロジャーと一緒に海辺や森を散歩し、探検した経験をもとにして書かれた本です。そして全ての生き物が互いに関わりあいながら暮らしていること、どんな小さな命もリスペクトしなければいけないということをロジャーに知ってほしいと願った本なのです。
 若松は、「自分を生かし、他者を生かし、そしてこの世界そのものを生かしている『いのち』に対して、どういう気持ちを持って向き合うことができるのか。それがこの本を読むに際して、最初に考えなくてはならないことであり、最後にたどり着かなくてはならない問題でもあるのです。」と書いています。「センス・オブ・ワンダー」は、わずか50数ページの薄い本なのですが、その深い世界観を知るためにも、本書は役に立つと思います。
 「子どもといっしょに自然を探検するというのは、まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性にみがきをかけるということです。それは、しばらくつかっていなかった感覚の回路をひらくこと、つまり、あなたの目、耳、鼻、指先のつかいかたをもう一度学び直すことなのです。 わたしたちの多くは、まわりの世界のほとんどを視覚を通して認識しています。しかし、目にはしていながら、ほんとうは見ていないことも多いのです。見すごしていた美しさに目をひらくひとつの方法は、自分自分自身に問いかけてみることです。」というレイチェルの言葉を著者は引用しています。京都の街中に住む私が、北海道に行きたくなり、そして安藤さんに案内を乞うのは、そのためなのかもしれません。



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