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レティシア書房店長日誌

橋口亮輔監督「お母さんが一緒」
 
 三人姉妹がお母さんの誕生日を祝って、温泉に招待する1日を描いた話と聞けば、フツーはほのぼのとした親孝行のホームドラマを想像しますが、とんでもない。「ハッシュ」、「ぐるりのこと」、「恋人たち」と傑作映画を連発してきた橋口らしい捻りのきいた映画でした。
 タイトルに「お母さんが一緒」とありますが、ごくわずかなシルエット以外、劇中にお母さんは登場しません。まず、そこが面白い。原作はペヤンヌマキの舞台劇で、それを橋口監督が脚色しました。
 舞台のほとんどは、この家族が泊まる旅館の一室です。長女(江口のりこ)、次女(内田慈)、三女(古川琴音)は、旅館に到着するなり険悪な雰囲気になります。

 長女が、やれ部屋がカビ臭いとか、露天風呂が小さいとか文句をつけ始め、このプランを計画した次女を攻撃し始めます。彼女は母親の期待を背負って言われるままに生きてきたのに、あんたらは何だ!と被害者意識を爆発させます。そこへ突然、三女の婚約者という男性が登場。男運が悪い独身の次女は面白くなくなってきて、不満を爆発させます。
 家族ならあるある、の親近感と反発が入り混じり、その上部外者の婚約者が乱入して収束不可能な展開になっていきます。伝統的な日本の旅館の畳と障子の部屋に空間を限定して、監督は彼女たちの複雑な感情を見続けます。
 おいおいそこまで言うか?とドギマギするこの三人の罵詈雑言の応酬、辛辣な言葉を妹たちに連発する長女が、痛いところを突かれての逆ギレぶりが、もう、凄くて笑えます。ついには絶叫状態に突入、乱闘騒ぎにエスカレートしていきます。三人の女優の速射砲のごとき台詞の応酬に、家族のめんどくささと、それでもかけがえのなさを浮かび上がらせる監督の手腕にまんまと乗せられた傑作でした。
 

長女(江口のりこ)

 苦しくて、辛い、でもラストの青空に救われて泣けてきた傑作「恋人たち」から、9年ぶりの橋口亮輔の新しい魅力に出会えた作品でした。

⭐️夏期休暇のお知らせ 8月5日(月)〜9日(金)休業いたします
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7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
「てくり33号」(770円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)

 

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