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レティシア書房店長日誌

三宅唱「夜明けのすべて」

 生理の前になるとPMS(月経前症候群)を発病し、イライラが抑えられなくなる藤沢と、突然パニック症候群に襲われた青年山添との交流を描いた映画「夜明けのすべて」を観ました。

 三宅唱監督の前作は、耳に障害のある女性ボクサーを描いた「ケイコ目を澄ませて」でした。今回も障害を持った若者を描いた作品ですが、もちろんこれ見よがしにドラマチックにしたりはしません。
 映画は、藤沢が職場でイライラを爆発して、仕事をやめるシーンからスタートします。いきなり波乱万丈?と思っていると、「5年後」というスーパーが出て、新しい職場である小さな玩具製造工房に職を得ている姿が映し出されます。そこには、パニック症候群で大企業を休職している山添も働いていました。二人は、それぞれに障害を抱えていることは知りません。
 そんな二人が少しづつ距離を縮めてゆく姿を、距離を置いて、でも暖かい眼差しを忘れずに描いていきます。二人に恋愛感情が芽生えるとか、その障害でトラブルを起こすようなシーンはなく、日常をとにかく丁寧に、丁寧に描き出します。まるで、世界はひっそりと、心地よく、穏やかにあれとでも祈っているようです。
 二人はお互いのことを大事に思いながらも、藤沢は、老いた母の介護ができるようにと地元の出版社へ転職します。山添は、理解ある元上司が、元の職場へ復帰できるように取り計らってくれていることに感謝しながらも、この玩具工房に残ることを決心します。二人の別れのシーンも、ありません。

 ラストシーン、正確に言えばエンドクレジットシーンが、この映画のすべてを物語っています。職場の昼休み、工房の前の空き地でキャッチボールをする人、体操をする人、コンビニ行ってきますと自転車にまたがる山添。いつも目にする昼休みの光景です。穏やかな日差しが降り注ぎ、ここちよい風が吹き抜ける住宅街の中の玩具製造工房。なんと、穏やかな一日だろう!障害があろうがなかろうが、毎日がこうあってほしいという願いを感じます。こんな素敵なエンドクレジットって見たことがありませんでした。「21世紀の日本にもたらされた宝石のような映画」と、映画監督の濱口竜介がコメントしていますが、まさにその通りの作品でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」



⭐️入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」
(3300円)

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