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レティシア書房店長日誌

チェーホフ「エゴール少年大草原の旅」
 
 
チェーホフはロシアを代表する文豪。戯曲「ワーニャ伯父さん」「かもめ」「桜の園」などの戯曲で日本でお馴染みです。小説では「犬を連れた奥さん」がポピュラーだと思います。しかし私は一度も読んだことがありませんでした。

 本書は、1888年ロシアの文芸雑誌「北方報知」に掲載され、これがチェーホフ名義で出版されたデビュー作品となりました。一人の少年が、荒々しいロシアの大平原を大人達と三日三晩旅をして、大人の社会に触れて、様々な体験を重ねて成長してゆく様子を描いた中編小説です。(90ページほどです)
 よくある成長物語なのですが、自然描写が卓越していて、読者も馬車に乗りながら旅をする気分になってきます。
「刈り取りのすんだライ麦、背の高いブーリャン草、トウダイ草、野生の麻ーそれらはのこらず炎暑のために茶色になったり、赤みを帯びたりして半死半生の状態になっていたが、今や朝露に洗われ、太陽の光の愛撫をうけ、新たに花を開くためによみがえった。街道の上空ではウミスズメが楽しげに啼きながら飛び回り、草の中ではハタリスが啼きかわし、どこか左側の遠くのほうでタゲリが啼いていた。四輪馬車におどろいたライチョウの群れが羽ばたいて飛び立ち、おだやかなトルルルという声をあげながら丘のほうへ飛んでいった。キリギリスやコオロギやカミキリムシやオケラたちが草の中でキキイという平板な音楽を合奏していた。」と、こんな描写が続いていきます。少年エゴールは、道中、見たこともない人々や、台風並みの恐ろしい破壊力を持つ雷雨にずぶ濡れになったりしながら、中学校へ行くために遠い親戚の家に向かいます。
 エカテリーナ・ロシコーワの、鋭く繊細な線で描いた草木や鳥など自然の風景画が挿入されていて、想像力が高まります。
「太陽が西に傾きかけたときになって、やっと大草原と丘と大気が太陽の抑圧に耐えかね、疲れ果てて堪忍袋の緒を切らし、太陽の頸木を払いのけようとした。丘の陰から不意に灰色をした雲がもくもくとあらわれた。雲は大草原と目配せをして<こっちの用意はできたぞ>とでも言うように空に広がった。突然、よどんだ大気の中で何かがはじけ、強い風が吹きだして、ざわめきや笛を吹くような音とともに大草原の中をまわりはじめた。」
 ゆっくりと、一言一言噛み締めながら読んでゆくと、どんどんと変化してゆくロシアの気候がリアルに伝わってくるようです。


レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(野菜画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(著者サイン入り!)



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