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レティシア書房店長日記

志子田勇「映画の朝ごはん」

 映画の現場のドキュメンタリー作品と言っても、、監督や、スタッフ、撮影技術者といったエキスパートのものではありません。出演している俳優たちを追いかけたものでもありません。この映画の主役は「ポパイ」という屋号のお弁当屋さんです。
 「ポパイ」は映画業界では誰でもが知っているお弁当屋さんらしく、ロケ地でここの朝食弁当を食べないと、現場に力が入らないと言われている伝説のお店だそうです。で、どんな朝ごはんかというとおにぎり二つに唐揚げ(あるいはゆで卵)一つとタクアンだけのシンプルなお弁当なのです。

 「ポパイ」を立ち上げた先代が、東映大泉撮影所に知人がいたことから、撮影所に弁当を卸すことになり、やがて映画やTVのロケ現場にお弁当を届けることになりました。深夜からご飯を炊いて、ベテランの職人さん数名が、機械に頼らずほとんど手作業でお弁当を作り、盛り付けをして早朝5時にロケ隊が待つ新宿へと運びます。職場の暖かな雰囲気や人間関係がきちんと描かれて、働く人たちに対するリスペクトが感じられます。
 映画は、お弁当屋さんの調理場の様子と並行して、予算をにらみながら、ロケ現場を円滑に進め、お昼や夜のご飯を手配する制作部のメンバーにもフォーカスしていきます。そして、「ポパイ」のファンである日本映画界の第一線級の監督が次々と登場して、その思いを語っていきます。ロケ現場では、この映画のもうひとりの主役である制作部の新人竹山君が、奔走しています。涙ぐましい努力を続ける制作部のメンバーの仕事ぶりを見ていると、これから劇場でエンドクレジットに登場する「制作主任」だとか「制作進行」の名前もしっかり見ておこう!という気分になります。 
 そして「食べる」という幸せを教えてくれる映画でもあります。現場で、おにぎりを頬張るスタッフが、「人間に戻れる瞬間」だと話します。混乱と怒号の支配する現場では、ほとんど奴隷のように走り回っているメンバーたちには、ほっとする瞬間なのでしょうね。ナレーションは小泉今日子が担当。「UPLINK京都」で公開中です。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展


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