白黒はっきりつけたい倶楽部
灰空市の空を見て、「ああ今日も灰色だ」と思う者はいないだろう。当たり前だからだ。
そんな街のコンテナ置き場で、フェンス越しの運河を背にした少女が二人、数十人の不良男子高生に囲まれている。
「女二人で俺たちのシマに乗り込むたぁ、覚悟はできてんだろうな?」ひときわ体格の大きい番長格が、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。「ひん剥いて、ソシャゲの夏ピックアップみたいな格好させてやるぜ!」
「ヒューッ!」「アニキってば、過激ィー!」
囲まれた少女たちはそれぞれの目線を交わす。
「ま! 破廉恥な連中ですわね! やっぱりクロじゃありません?」
「そーかァ? こんなアホどもにハッキングとかできねーだろ。あたしゃシロだと思うけどなァ」
両手を腰にあてて憤慨するのは白河院チヨ。白い聖ハイロゥ女学院制服をきっちり着こなした令嬢然とした少女であり、シーカー&労働&暴力担当。その二の腕には『四苦八苦羅武』と書かれたステッカーが貼られている。
バットを杖にして気怠げなのは黒崎トモカ。黒いパーカーとホットパンツに髑髏のアクセであちこち飾った少女であり、ハッカー&推理&暴力担当。タブレットには『Seek Hack LOVE』と書かれたステッカーが貼られている。
見た目も、学校も、身分も、性格も、何もかも正反対の二人だった。だから大の仲良しだ。彼女たちはこの曖昧な街でおこる曖昧な事件を放っておけない。それこそが彼女たちの数少ない共通点であり、すなわち《白黒はっきりつけたい倶楽部》なのである!
「でもでも、現場で私が見つけた証拠はここに置かれてたはずなのでしょう?」
「まーなァ。例のデータの送信記録もここだしなァ」
「こそこそイチャついてんじゃねーぜ! 着替え場所はコンテナがあっから安心しろや!」
番長たちが向かってくる。チヨは拳を構え、トモカはタブレットを仕舞った。
「ま、こいつらボコってから聞くとすっかァ」
「そうこなくっちゃですわね!」
【続く】
(これは逆噴射小説大賞2020の没作品です)
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