約束のネバーランド

先日、八楽文庫の入れ替えをさせて頂いた。

今回納本した中で好評なのは「約束のネバーランド」らしい。

やはり漫画か…活字はなかなか読んでもらえそうにないな。

とは言え自分もお気に入りだからこそ選書したのには違いないし、ここ数年の週刊少年ジャンプの作品の中でもぶっち切りに傑作だと思う。
個人的には現在絶賛人気沸騰中の「鬼滅の刃」よりも好きと言っていい。

作品の連載開始が2016年。
ジャンプの長期連載作品が一斉に終了し入れ替わりに怒涛の新連載群がスタートした世代交代の年のその中の一作だった。
第1話を読んで一発でハマった。
リアルタイムで読んでいてコレは物凄い作品が来たとと思ったのは自分だけではあるまい。


舞台は様々な孤児達が暮らすグレイスフィールド。孤児院のママ・イザベラのもとで主人公エマ達を初めとする孤児達が平和な毎日を過ごしていた。
そんなある日孤児の1人コニーに里親が見つかり院を出て行くことになったのだが、ぬいぐるみを忘れていったのを見つけたエマが急いで届けに孤児院の門へ向かう。
そこにあったのは心臓をひと突きにされたコニーの死体となった姿。この1ページの実にショッキングに描かれていること。
すると見るからにおぞましい異形の鬼達がやってきてコニーを瓶に詰めてしまう。鬼達はコニーのことを「農園」の「人肉」と言う。その「商品」の取引を交わしていたのはやさしいはずのママだった。冷徹な表情で出荷を見送るママ。

「ここは農園 私は食料」

純心かつ天真爛漫なエマ
策士でトリッキーに立ち回るレイ
先読みと計画に長けた頭脳派のノーマン
真実を知った3人をはじめとする子ども達が生き残るための脱出劇が始まる。


非情な世界にグロテスクな生物、そして主人公達の低い年齢層と少年ジャンプとしてはかなり異色な作品だった。
ジャンプのターゲットとされる中高生向けのラノベやゲームチックなバトル・学園・ラブコメとは少し違う。むしろ近いのは海外のファンタジー小説やジュブナイル小説だろう。
特に容赦のない残酷描写や先の読めないスリリングさは「ダレン・シャン」に近いものがある。
児童向けの可愛らしい皮を被った壮大なダークファンタジーが好きな自分には実に刺さった。

まず世界観がよく出来てる。鬼達の生態や社会、この世界ならではの文化までよく出来ていてブレない。
ストーリーが進むにつれてはじめは恐怖の敵でしかなかった大人たちや鬼たちにも様々な表情や背景が見えてくる。全てが未知数な農園の外にも世界が広がる様が次第に明らかになりこの恐ろしい世界観にもだんだんと愛着が湧いてくる。

大人達の中でも1番好きなのはやはりイザベラだろう。時に子ども達を阻む壁となり時に愛で持って接し、自らも食糧児としての反骨心を失わない様が生き様としてとにかくカッコいいのだ。
カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と似ているとよく言われる約ネバだが、原作者の白井カイウ氏も間違いなく読んでるだろう。約ネバの食肉農場に対してこちらは臓器農場で主役キャシーは介護者…つまりイザベラだ。イザベラの初恋のエピソードはキャシーを彷彿とさせるものがありリスペクトを感じる。
大人が少年時代の顔を垣間見せる時は魅力的だ。
そして自分の叶えられなかった夢を子ども達が次々に叶えていく様を見て正直に、そして共に喜べるようなそんな大人に自分もなりたいものだ。

そして私が好きな鬼はレウウィス。鬼達も上級貴族に人間に親和的なものからモブに知性のない下級鬼までなどいろいろいるが、鬼達も独自の文明と社会を築いていて人間と変わりがない。人間を食べられるいかんによって社会格差が生まれる歪さや愚かさなんて実に人間らしい。上級貴族に至っては高級農園の人間の味に拘ったりわざわざ外から人間を捕獲して来て狩り庭に追い込む贅を尽くした遊びをするという連中もいる。レウウィスも後者の一味の1人で身体能力は桁外れで知性も哲学も持ち合わせ鬼達の中でも広く慕われるというまさに悪のカリスマと言った存在だ。他の鬼に漏れずそれどころかトップクラスに物々しいデザインをしているのだが、敵ながら紳士的な様が物凄くカッコいいのだ。狩りの対象でありながら終始人間に興味を持ち鬼なりの礼儀を忘れずアプローチする様はブレない。残虐かつ真性のハンターで人間からすれば1番恐ろしいタイプだがある意味で1番人間をリスペクトしている鬼でもあるのだ。食糧児達の活躍は鬼達をも動かすのだが作中1番心を動かされて成長した鬼はレウウィスだと思う。彼がどうなったか最後まで読むと抱くイメージはまた変わってくるだろう。

食糧児が自由を得るために活躍するということは大人や鬼を変えることにも繋がっているのだから見応えがある。
どんなに恐ろしく見えても大人や鬼も結局は自分達と同じ「人間」だから立ち向かえるのだろう。ちゃんと筋道立てて知恵を絞り子ども達が自由を求めて立ち向かう。主人公達の駆け引きが実に面白い。まさに未知の世界で子どもが成長して世界を変える様をを体現したとんでもない作品なのだ。

何よりエマという主人公が本当にいい。
「ネバーランド」というからにはモデルはやはりピーターパンなのだろう。時に年齢以上の聡さを感じさせるが年相応に元気たっぷりでどこかボーイッシュさもある。またアニメ版のエマ役の諸星すみれさんがイメージを体現していてこれ以上ない程ピッタリなんだ。知性や生命力に芯の強さはもちろんこの殺伐とした世界観にあって最後までかわいらしく天真爛漫さを失わない様が実に素晴らしい。

先に話した新世代の作品群も今年揃って最終回を迎えた。これを機に読み返して見るのも面白いと思う。


・関連作品
ダレン・シャン「ダレン・シャン」
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
諫山創「進撃の巨人」
岩明均「寄生獣」
石田スイ「東京喰種」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?