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読んだ本の感想

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卍丸的な読書感想文集
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#読書感想文

ページと瓦礫のあいだで

ポール・オースターが死んだ。 そのようなニュースを見たとき、僕は偶然にも『ムーン・パレス…

卍丸の本棚
1か月前
12

運命の彼方へ ──ミラン・クンデラとカール・ヤスパースに寄せて

はじめに ヤスパース──懐かしくも親しみ深い名前が飛び込んできた。須藤輝彦さんの『たま…

卍丸の本棚
2か月前
13

『恋する虜』 ジャン・ジュネ

 デモクラシーとは、他民族排斥に立脚し、自民族中心的な平等を謳うものかもしれない。 宗教…

卍丸の本棚
8か月前
18

僕の志賀直哉

久方ぶりに志賀直哉の暗夜行路をめくってみた。 サンテグジュペリの『夜間飛行』にも通ずる達…

12

『同調者』アルベルト・モラヴィア

夕方、妻に買い物を頼まれて、材木座近くのドラッグストアへやってきた。車の中に夕暮れの西日…

12

『スティル・ライフ』 池澤夏樹

僕の好きな世界感、感性、知性、美で僕をとりまく世界を埋めたい。 言葉は使い古され少しずつ…

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『時は老いをいそぐ』アントニオ・タブッキ

タブッキは時と空間のねじれを記憶を媒体にした文章を音楽的に建築するかのように記録してきたのかもしれない───晩年の短編集を一日一篇ずつ再読していた。僕は心の中でタブッキの感想を言葉にしてはいけないという想いと言葉に残しておきたいという想いでいつもせめぎ合う。 そして知らなければ良かったことも知る───しかしそれは知るべきだった時と空間の記憶として。 読んだ感想のはしがきのようなもの話はすこしタブッキから飛んでしまうけれど、僕は本書を読み終えた日、仕事の関係でヨーロッパ建築

『戦争の悲しみ』 バオ・ニン

寒波がやってくる少し前、集中して本を読みたくて、近所のカフェに立ち寄った。 ヴェトナム戦…

14

『ある家族の会話』 ナタリア・ギンズブルグ

こんなにひとりの翻訳者を追いかけたことはないかもしれない。 須賀敦子全集から知ったナタリ…

23

絵画に閉じ込められた題名──稠密なキューブの集合

色彩──光を十分に受けた物体の反射光を僕たちは赤、青、緑の三種類を組み合わせて目のセンサ…

21

書かなければならない手紙2022

李さんが僕の髪に沢山のクリップを付けたあと、手ぐしでワシャワシャとしてワックスを息をころ…

13

周瑜と野ばらと焼き芋と

 午前9時。宿泊中のホテル前で僕はウォンさんを待っていた。あるクライアントとの事業計画を…

13

一日一篇須賀敦子から『チェザレの家』

今日の一日一篇須賀敦子は、非常に興味深く読めた一篇、須賀敦子全集第三巻に収録されている、…

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古寺と須賀敦子と室生犀星

気付けばホテルの部屋は暗闇に包まれ、窓の外の高層ビル群は光彩を放ちはじめていた。 冬の上海は寒暖差が激しいように感じる。 この数日あまり天候も冴えない。 どんよりとした雲が空を覆い、時には冷たい霧雨が街に立ち込めるときも増えた。 下に見えるアスファルトに所々まだ水たまりが残っていて、時々ビルのネオンや行き交う車のランプを反射させている。 少し歩かないといけないけれど、静安寺が行ける距離にある。 空海も遣唐使として訪れている寺は3世紀の三国時代に由来するほどの歴史を持つ。