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デジタル書籍コンテンツとか海外版権だとか(2024年僕たちはどう生きるか)

正月は個人的には一年で一番節目らしい節目、かつお休みでもあるのでお酒を飲みながらぼんやりと今年はどうしようかな、などと思いをめぐらすわけですが、せっかくこのような場所も作ったことですし言語化しておいた方がいいのかな、公開しておかないと振り返らないし、また半煮えの状態でも何かを書いておくとたまたまそれを見た人とつながったり、お会いした時の話のつぎ穂となったりすることも実際にあったりしたので、勢いだけで書いてみようと思います。

とはいえ当たり前ですがお仕事の目標はそれはそれでありますので、そのまま書くわけにもまいりません。ただ仕事の内容も変わった部分があるので自己紹介も兼ねて簡単に書いておきます。中堅の出版社で海外版権輸出と、ネット書店を主に見ています。というかこの記事を見つける奇特な方は「お前相澤だろ」とツッコミを入れていることかと思いますが。。

私が今やっていること

海外版権輸出とは、自社で発行した本の外国語版出版のライセンスを売る、ということです。海外で出版された本、たとえば『はらぺこあおむし』の日本語版が世代をまたいでのロングセラーとなっていますが、その逆で、日本で出た本を海外、主にアジアに出版権を売るというお仕事です。書籍の紹介と契約がメインですね。中国・韓国・台湾・タイ・ベトナムが主要な輸出先で、欧米や他のエリアは少々です。

ネット書店担当というのはつまりご存知アマゾンや楽天なのですが、電子コンテンツも加えてストアに向き合うというアプローチでやってみようということでこの半年ぐらい取り組んでいます。ネット書店は書誌の登録・更新から在庫・発注管理まで社内外にたくさんの人が関わっているわけですが、それを全部やるというわけではもちろんありません。ストア対策、つまり動線増からコンバージョンアップにかけてできることを洗い出してやってみようという感じです。謎の大学Vendor Growth Universityも受講していますよ(笑)電子の制作販売には長いこと携わってきたわけですが、ECサイトとしてのネット書店へのアプローチをしてこなかったので結構巨大な仕事が埋まっているような気がしています。

出版業界は悪いんじゃなかったのか

少し引いた目で業界を見ると、流通コスト・資材費の高騰に直面し、ストア数減少もありと逆風ニュースだらけの一年だったように思います。一年どころではないですかね。。もちろん手をこまねいているばかりではなく在庫の適正化や物流面での新しい動きもありました。これからの動きに注目ですね。目下は逆風がつむじを巻いている中でじっと襟を立ててじっと我慢している感じでしょうか。なんか仕事もプライベートも病気自慢になっちゃったねと飲みながら力なく笑った夜も・・あったかもしれません。

業務用の大きな扇風機にお笑い芸人が吹き飛ばされそうになりながらもヨダレを垂らし髪型も原形をとどめない状態でも向かっていく絵面がありますが心情的にはあんな感じ。でもですねえ、業界最大手の数社は昨対こそ割っていたりもしますが概ねいい決算なんですよね。これはどういうことなんでしょう。短評や記事を見てみるとハンコを押したように版権やデジタルが好調とあります。

デジタルシフトに積極的な講談社、集英社、小学館など大手の業績は堅調。紙出版社から派生したデジタル収入やライツビジネスが業績を底上げしている。

会社四季報 業界地図 2024年版

これは、プレッシャーがかかりますね。だって、海外版権とデジタルが成長エンジンだぞ、お前ちゃんとやれよ、ってことになってしまうじゃないですか。うちは何やってんだ、大手見習ってすぐやれイマスグニダ。となってしまうじゃないですか。いわれなければおかしいではないですか。でもならないんですよ。みんなわかっているんですよ。実際の成長エンジンは海外版権もデジタルも「MANGA」と「キャラクター」が大きいのです。エビデンスまみれの文章もうっとうしいので最低限にしますが下のリンクの記事の、上から二番目のグラフをご覧いただければ一目瞭然で、デジタルとはつまり漫画なのです。

そして漫画のビッグヒットが出ると付随してアニメやノベライズ・映画、そしてキャラクターグッズやゲームにつながり海外へ〜と、奥行きのあるビジネスの型がすでにできている。もちろんそろばんずくでヒットを計算できるほど甘くはないでしょうし、そこまで広がると人も予算も大掛かりになり新しいリスクも発生するでしょう。ただ、実績と生み出すノウハウと経験した人員というポテンシャルは持っているわけですね。でもまずは成長ジャンルということで、資金力・人材がある最大手に続く規模の大手のコミック参入が相次いだ数年でもありました。既存のコミック単行本のデジタル化に加えてタテ読みといわれるボーンデジタルの新しいスタイルの漫画コンテンツとプラットフォームが絶賛伸長しているという側面もあります。出版大手だけではなく新しいプレーヤーもここには参入しています。書いていて外野感が重くのしかかって参りました。漫画制作そのものもそうですが販売先も販売ノウハウも、特にタテ読みは制作チームも大掛かりな分業制が当たり前ということもあり参入障壁は高いです。制作プロダクションも増えているようですが、外野としてはなかなかにハードル高いです。コンテンツを海外から輸入するという手もありますがこちらもすでにブルーオーシャンではなく、さらに新参は販売ノウハウに優位性がない上にいつまで続くのこの円安です。前置きだったはずなのに全然終わらないんですがどうしたらいいでしょう。

では『僕たちはどう生きるか』デジタル編

外野から隣の芝の青さについて熱弁しても仕方がありませんね。では僕たちはどう生きればいいのか。さすがにそういってしまうと大きすぎるので、デジタルと海外について、世の中がどうなりそうだ、ということとあわせながら「やりよう」がどのあたりにありそうなのかカロリーゼロの缶チューハイを片手に考察していきたいと思います。私の現在の業務上の知識や経験がベースとなってはおりますが、ここからは私見といいますか、私が今年このように仕事に取り組みますというマニフェストではございません。特にうっかり読んでしまった同僚の方、社内に転送などしないように(ダチョウの絶対押すなよ、ではないからね!)。ただのひとりごとです。私が長文を書くときの締めは大体、お願い文になります。今回も多分、そうなります。繰り返しますがマニフェストではなくお願いです。

デジタルに関して、漫画の比率が圧倒的に高いのは先ほどのグラフの通りですが、だから文字ものが儲からないというわけではありません。単純に市場が小さいだけです。というかそもそも漫画と文字ものという2項にとらわれなくてもいいんじゃないでしょうか。

知られていないノウハウや情報を提供するツールとして

書籍コンテンツを「知られていないノウハウや情報を提供するツール」として考えてみましょう。知りたいことがあるとき私たちはググります。インスタやXで直接検索をする方も増えているようですね。懐メロのタイトルが思い出せない、みたいな一問一答の問いの場合は、一発出てきたらはい終了です。これが「相続の問題、我が家の場合」とか「ダイバーシティをどう考えたらいいの」「ワクチン打ったらまずいの?」みたいにお題が大きくなってくると検索はがぜん怪しくなってきます。総論が欲しいのか、各論なのか。オーソリティは大丈夫か、信頼できる内容なのか。そもそもが詳しくないから調べているわけで、判断しかねる状況も出てくるかと思います。生成系AIが爆誕してそのあたりも上手にそれっぽくまとめてくれますが、分母となるディープラーニング情報そのものが怪しい場合にはそれっぽさが悪に作用する場合だってあります。その点、書籍のコンテンツは専門家が書きプロによって編集され出版社ののれんで出しているという担保があります。急ぎの場合でも電子書籍ならポチッと買ったその瞬間から読めるし、検索も可能です。いいじゃないですか。でもお金がかかります。ということは、デジタルコンテンツは検索結果では満たされない大きさや重さのテーマで、対価を払ってもいいぐらいの切実度がある内容、ということになるでしょうか。やはり専門書でインデックスの代わりに検索で逆引きするようなタイプのものはいいかもしれませんね。なんか、長く書いたわりにあまり締まらなかったなあ。

学習のテキストとして

次に、学習のコンテンツとしてのデジタルコンテンツを考えてみましょう。子供の教科書を筆頭に盤石な存在感です。科目・単元ごとに整理されて、ステップを組んで学べるように練られたものです。でも、まだ紙メインですよね。タブレットが支給されて、教科書はそのままなのでその分荷物が増えただけという笑えない話もありますが、段階的かもしれませんがデジタルの方向に進むのは間違いないでしょう。デジタル化がすでに進んでいるのが予備校で、ライブにしろアーカイブにしろ授業はモニター越しに受講し、内容の確認テストを授業後すぐオンラインでやってひとコマ完結。なので、つまらないから寝ていました、では終われないわけです。印刷物は最小限になっており、DX化が進んでいるといえるでしょう。逆に人を介するのがどのコースを取るか、学習の進捗や進路の相談です。授業はトップ講師の質の高いコンテンツを一斉配信、一方ソフトとしてのきめ細かい対応は人がやるわけです。この仕組みはこれまでもありましたがコロナで一気に加速、というかいき渡ったものかと思われます(すいませんイメージです)。ただ事実としてはそのように機能的な学習システムを経験したDX学習世代が社会人になり始める、ということなんです。大学はどうだ、という話はありますが一旦おいて、一度教科書を卒業したこの世代の学び経験にどう対応するか、それはビジネスのノウハウも研修の方式に関しても、これまではそうだったから、では断絶が起きる可能性もあるのではないでしょうか。実際人材育成畑では起きているという話も聞きますね。内定者研修や新入社員研修的な内容は予備校のシステムのような学び方はありでしょうね。動画とハイブリッドになっていくのはビジネスに限らず必然の流れかと思います。さらには理解度チェック機能でしょうか。これはもうアプリの領域ですね。ビジネスコンテンツに関しては汎用のノウハウや情報はUdemyのようなプラットフォーム、カスタムが必要なものはその企業・組織のハイブリッドマニュアルとして収斂していく可能性はありますね。というかなりつつある、といった方が正確か。オトバンクの法人サービスやflier、竹村さんのWORDSの方向性もそこに妙味があるような気がします。そしてキュレーションのような役割も求められていくのかなと。このようにデジタルに関しては電子書籍というパッケージの価値よりも、デジタルであることのメリットを活かした内容に相応しい見せ方にウェイトが置かれるようになるのでは、と予測します。もうなってるじゃんとかいわないでくださいね。

予備校をたとえに出しましたが、攻略本ではなく実況動画でゲームをやってきた世代なので基幹システムやデータ処理、資料作成マニュアルなどはもう実況キャプチャ動画が一番じゃないかとか。一方企業理念とか心得的なところはトップが肉声で語るPodcastとかね。すいません、どうしてもビジネス書っぽい話になってしまいますが。学習指導要領のようにビジネス研修も系統があり段階のあるものなので重ねやすいこともありまして。癒し本、ほっこり本とかとんがったメッセージとかはまた相応しいパッケージがあると思いますがキリがないので一旦ここで。

一旦ここで、と書いたところで「結論ないじゃないか」と思われるかもしれない。ないですよ。。

では『僕たちはどう生きるか』海外版権編

「こんまりの片付けの本米国でベストセラーだって」「村上春樹氏の新刊の版権が海外で高値の契約金となった」「窓際のトットちゃんは中国での販売部数えぐいらしいよ」とかの話題はありますが、ジブリアニメやポケモンのキャラクターが海外に当たり前のように広く公開されているのに比べると書籍に関しては話題のパンチは弱いのかなあ、と思います。ただなめてはいけません、先にあげたようなヒットタイトル「じゃない」普通の書籍の版権売買のプロセスはびっくりするほど地味で工数が多いお仕事なのです。エージェントを介した契約とお金のやり取りがプロセスの中心なので仕方がないですが。そしてここでも、漫画は大きい。どっちかというとアニメかもしれませんが。デジタルのところと事情は同じです。

なかなか日本の出版社の一般書の企画会議で海外展開、海外受けを前提に話し合われることはないでしょう。成功体験がある出版社でも、国内マーケットの担保なしに海外での高額オファーを狙って企画を通すという判断にはなかなか至らないかと思います。つまり海外にいくらで売れた、というのは「結果的に」というケースが多いのです。たまごとひよこどっちが先か論争ですが、だからコストをかけて海外のエージェントや出版社に売り込みにくいという事情もあったりします。PIE Internationalさんのように企画から海外を睨んで(ライセンスではなくブツそのまま輸出できるプロダクトづくり)というのはレアケースかと思います。誤解を恐れずいえば「売上は読めないし煩雑だし地勢リスクも為替リスクもあるしなんか怖い」から投資しづらい、というのが本音なんだろうなと思います。いや正直私もそう思うですよ。事実そうなんですもの。

これだけぶっちゃけたまま終わってしまうと私のサラリーマン的立場において「不適格である」とキャリアも終わってしまいそうです。ぶっちゃけっぱなしではまずいでしょう。以下希望的観測ではあるが目下の状況においてこう進んだらいいなあという方向性を綴ってみたいと思います。

煩雑さの軽減 システム投資

よくいわれているDXでの効率化、業務の標準化ということももちろん取り組む必要があると思うのですが、取引先の国もエージェントも違い契約書も税金も商習慣も違ったりがあるので全て同じ型にはめるという標準化は難しいです。誰かが投資して型を作っても、そのフォーマットに誰かが合わせなくてはいけないということになってしまいます。となると全てのプロセスを通じてみんなが使えるシステムを作らないと誰かにしわ寄せが来ることになります。パンデミックで国をまたぐどころか国内でも対面も難しかった状況で、リモートのやり取りでコストを抑えてフェアに業務プロセスを完結させるには、作品紹介も契約も共通のシステム上で行うのが条件になります。システムはともかくフォーマットの共有が必要です。ありがたいことにいくつかのエージェントや団体が広い視野のもとでインフラ投資をしてくださっています。もちろん最終的には自らのビジネスにつなげるのは大前提としても、自己都合だけの仕様で設計していないのは伝わってきて、尊いものであるとしみじみ響きます。このようなことが進んでいくこと、端的にいえばcsvの書き出しやレポートの仕様を揃えることひとつとっても、あなたが思っている以上に助かるんですよ!あなたが誰か、という話じゃないですよ。煩雑さの軽減のため書式を揃えて工数を減らそうという話でした。

デジタル流通ならば可能性があること

もう一つはもう私の脳内がお花畑なのかもしれないことをあえて公開してしまおうという試みです。去年こっそり始めたブログで、週に一度を目標に、国内外のデジタルコンテンツのニュースや記事をまとめて寸評するということをやっています。なんのことはない、あちこちから見つけて「あとで読もう」とチェックしても大体そのまま読まずに流れてしまうので、ストックを定期的に公開することで一回自分で読む機会を強制的に作ることにしたのです。トピックを掘っていくと海外記事に突き当たることも多く、Google先生にズバッと訳していただきざっと読んでコメントを書いています。「日本語」を押すだけで大概の言語の記事を一瞬で日本語で読むことが可能です。精度こそムラがあるかもしれませんが私のように厳密さを求めていない読み手にとってはは十分です。記事もそうですが、YouTubeのような動画もそうですよね。字幕機能の翻訳を使って、字幕映画を読むように海外コンテンツを見ることができます。すごい世の中になりました。さらに生成AIの登場で、翻訳の精度も上がっていくことでしょう。何がいいたいのか、じゃあ書籍の翻訳は要らなくなってしまうか、さすがにそれは飛躍が大きいかなと思います。詩や小説の繊細な表現や学術書の専門的な内容は「ざっとわかる」需要とはまた違うアウトプットが求められます。翻訳検討用にはAI翻訳は便利ですがそのまま商品化はまだ無理があるでしょう。でも需要があればコストをかけてしっかりとした翻訳をすることができますね。そこで「復刊ドットコム」スキームを導入するのはどうだろうと考えます。絶版書籍をみんなの投票によって需要を見える化し、一定の条件を満たせば再び世に出せる、というものです。いってみればクラウドファンディングの先駆けみたいなシステムです。出版社の目利きではなく読みたい人の総量(まさにクラファンでいいと思います)でマッチングするというものです。オリジナル言語の出版元は、この条件を満たせばライセンスアウトするのはOKという作品をカタログに出しておくわけです。翻訳先の国の出版をどこがするか、それもマッチングするかそれともエージェントが出版するかなどの論点はありますが、条件が揃えば電子書籍+PODであれば出版元の商品としていける可能性もあると思います。

今年こんな妄想を、コテンパンに叩いてもらったりふくらませてみたり、という話があちこちでガチにできたらいいなあと思っています。昨年は別テーマでいくつか走りましたが、今年は本業に近いところでもやりたいなと思っています。そんな時のタタキになればいいなということで、仕事始めの日にアップいたします。おつきあいいただけたら幸いでございます。本年もよろしくお願いいたします。


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