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映画評 デッドドントダイ

ネタバレ有りですので観賞後にお読み頂けると幸いです。

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今回はジムジャームッシュ監督最新作の

デッドドントダイ

ジャームッシュ作品常連俳優達が認知されてきた事や、新進気鋭のアダムドライバー主演でポピュラーなゾンビものである事、などから広く大衆に開かれている映画に思えます。ビジュアルからも。

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しかしズバッと観客を裏切る仕掛けになっており、大興奮かつ従来のゆるーい雰囲気も楽しめる個人的には場外ホームランな映画体験となりました。

大規模な工事によって地球の自転軸にズレが生じてしまった結果、生物や自然環境に様々な影響が出てしまう事になる。
そうして生まれたのが本作でのゾンビ。
冒頭では
日が沈まない・時計が止まってしまう・モバイルフォンが動かない
など不穏な空気をあくまで呑気に描きつつ来たるゾンビ来襲までは緩やかに時が過ぎていきます。
のんきな警官コンビのビル・マーレイとアダムドライバー。ちょいちょい挟まれるメタな台詞がたまりません。

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アダム「どうしてそう思ったんですか?」
ビル「なんだそれ、アドリブか?」
アダム「沈黙ドライバー…」

緊迫感がないままズボッと地面から手が伸びてきてゾンビ誕生。人間を襲うシーンはしっかり怖く撮っていて、シリアスで意外な印象を受けました。
翌朝この事件現場に駆けつける警察官3人の様子が良いシーンでした。
まずは署長のビルマーレイが爆走パトカーにて到着。第一発見者のおじちゃんと「複数の野生動物にやられたのでは?」と打ちひしがれていると2番目に到着するアダムドライバー。

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可愛い過ぎる…。

でけー図体に映えるツーシーター。しかもこの非常事態で律儀にサイドブレーキまで締めるあたりに監督のきめ細やかさを見た。風変わり手前の丁寧な言葉使いに違わぬサイドブレーキ。僅かな台詞とこの描写だけでしっかりキャラクターの性質を伝えており感動しました。
最後に到着するのが女性警官のクロエセヴィニー。鈍い色のプリウス、ノーサイドブレーキの為、揺れる車体。化粧っ気の薄く、金髪の引っ詰め髪に神経質そうな眼差し。呑気に駆けつけては現場となったお店の前に植えられた花壇は本当に素敵ね、などと呟くも凄惨な現場を見て事件を知りショックを受ける演技がめちゃくちゃ上手い。難しい役が多い印象だけど素顔はキュート。

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結局三人揃っても、口を揃えて出る言葉は  

   「野生動物にやられた?複数の?」

狭いコミュニティーでは言語や思想が似通ってくると言うがまさにソレである。

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素敵なキャラが多く、サブカル・映画好きなガスステーション店主のケイレブランドリージョーンズにもニヤニヤさせられた。お手製の吸血鬼ノスフェラトゥーTシャツを着て、生まれる前のスターログ(SF雑誌)が手に入るとはしゃぎ、ジョックからのナード扱いに憤慨しつつも口答えする様子などが最高でした。

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ストーリー中盤、街中がゾンビだらけになってしまう。生き残るために着々と準備を整え、古今東西のゾンビ映画の知識を生かして小さなホームセンターにそこの店主と共に立て篭もる。彼らがどうなったかは是非鑑賞して確かめて欲しい。ゾンビ映画への愛に溢れていた。

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あとはキャラ立ちビンビンなティルダスィントンについては語るのもヤボなので写真どうぞ。

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日常の習慣に基づいて行動するゾンビ。珈琲を飲んだり、お洒落したりと沢山の趣味趣向が見られます。中にはwifiやスマホゾンビまで…。鑑賞しながら「もし死んで生き返ったなら自分はどんなゾンビになるのかな?音楽?お酒?ラーメン?映画?いやいや本能のままダンスゾンビかな?」と色々考えていました。

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物語後半、ゾンビに囲まれ車内に閉じ込められたビルとアダム。ピンチな状況を脱するとんでもない事件(マジでとんでも。これ予想出来た人ホームズ。IQ5000)が起こり、最後の闘いに向かう際に、自然の中で生きる世捨て人トムウェイツこと観察者によるナレーションが入ります。

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ここが非常にエモーショナルで作品のキモだと感じました。内容については敢えて伏せます。是非見て下さい、非常に革新的でした。私たちが知らず知らずのうちに選択している行動とは。色々と考えさせられます。  馴染み深い娯楽としてのゾンビ映画を逆手にとったやり口に脱帽。


前作パターソンは詩についての映画だった事もあり、キャラクターが語るシーンが多くありました。従来であれば台詞を少なめにして映像美で魅せるスタイルも可能だったでしょうが、もうワンツイスト「言葉」を加えてあった事で理解度がグンと広がって大衆に愛されるのも納得な作品だなと感じていました。(パターソンは知っていてもその前のオンリーラヴァーズレフトアライブは知らない方も少なくないかと)

今回も最後のナレーションによって作品内のエモーションを高め、感情を揺さぶりつつも理解しやすくする事にも成功していると感じました。

ジャームッシュ作品はこれまでに9本鑑賞。好きになるまで時間のかかった作品やイマイチだなーと思う作品もありますが、他では味わえないリアルな人間ドラマや永遠に浸って居たいオフビートな世界観は唯一無二。

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これからも応援しますよジャームッシュさん!

お友達の考察をやっと読めるのが嬉しい。

こちらも是非に!

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