見出し画像

パスティーシュって面白い

昨日書いた『架空論文投稿計画』を読みながら思い出した本があります。
系統は違うのですが、悪ノリ加減が楽しいこの本。

英語教科書でおなじみのジャックとベティが50歳で再会したとき、いかなる会話が交されたか?珍無類の苦い爆笑、知的きわまるバカバカしさで全く新しい小説の楽しみを創りあげた奇才の粒ぞろいの短篇集。ワープロやTVコマーシャル、洋画に時代劇……身近な世界が突然笑いの舞台に。
Amazon商品ページより

パスティーシュ(文体模倣)の手法で書かれた作品なんですが、めちゃくちゃ面白い。
中学の時かなあ、姉がやっていた通信教材のちょっとした読み物ページの本紹介か何かで見て、面白そうだから買って読んだ本です。

表題の『永遠のジャック&ベティ』は英語の教科書の登場人物、ジャックとベティが50年後に出会うお話。もう人生経験を重ねていい歳になった2人の再会。それなのに2人で話そうとすると、あの頃に戻ってしまい、ぎこちない会話しか交わせなくなる、という内容なんですが、あらすじだけ見ると胸キュン系みたいでしょ?でもそのぎこちない会話というのが、教科書的な直訳っぽい会話しかできないという情緒もへったくれもないものなんです。
「これはペンですか?」「はい、これはペンです」的なあのぎこちない会話。「お元気ですか?」「はい、元気です、あなたは?」「元気です、ありがとう」みたいな会話をしながら、違う、そんなことが話したいんじゃない、あの頃のほのかな恋や、今どうしているのか話したいんだー!!とモヤモヤするのがすごく味わい深い。笑っちゃうんですよねえ。今でも好意を持っているジャックはそのことをベティに伝えたいんですが、その年齢なら当然できるような世慣れた口説き文句がなぜか出てこない。こんなこと言ったら平手打ち必至の身も蓋もない直接的な言葉しか出てこないもんだから、結局言い出せずに終わりはちょっと切ない。
他にも谷崎の『瘋癲老人日記』っぽい『冴子』や『四畳半襖下張』風の『四畳半調理の拘泥』、ワープロの誤変換をネタにした『ワープロ爺さん』、インチキ広告っぽい『インパクトの瞬間』などなど、どれもそれっぽくて面白い。
ただ真似るだけではなくて、本家はこんなこと絶対書いてない、めちゃくちゃすぎ、と思える内容に仕上がっているのが本当に笑えるんですよね。文章はほんとにそれっぽい。
『ワープロ爺さん』は今で言うとオカンメールみたいなものなんですが、なんでそんな変換になる⁈の連続で、公共の場でうっかり読むと、挙動不審な人になること請け合い。この本全部そうと言えばそうなんですけども。

突き抜けたパロディって映画でも漫画でも面白いと思うんですけど、文章だけの小説でやると下手な人ならどうにももったりして笑えないところですが、清水義範さんのはどれも本当に面白い。
この『永遠のジャック&ベティ』とはまた違った作品ですけど、こちらも読んで爆笑してほしい(笑)。もうめちゃくちゃ。

いやいやいや!そんなんで点取れるか!とツッコミながら読んじゃいます😆
いっそのことこの作品から問題作る洒落た学校とかでてこないかしらと思いますね。
ダメな国語の解法を書いたお話を読みながら、正しく解答するというシュールな光景を想像するだけで笑えちゃいます。
あとこれもぜひ!もう表題作めっちゃ笑えます。もう無理問答みたいになってる(笑)。

あと、『蕎麦ときしめん』の司馬遼太郎風猿蟹合戦と、丸谷才一風で文庫のタイトルにもなってる『猿蟹合戦とはなにか』の読み比べも楽しい。なんでこんなに幅広く書けちゃうのって思います。いや、まねするだけでも大変ですよ。それをこんな面白おかしいものにしちゃうってほんとただものじゃないです。
ちなみに丸谷才一氏は清水義範氏のことをめっちゃ褒めてるんですが、この作品は素直に評価できないそうです(笑)。

ちょうど出会ったのがひねくれ度MAXの思春期だったのもハマる要因かなぁ?
文豪の名作を斜に見たりはしてなかったんですけど、授業的な真面目な作品鑑賞というか解釈というかそういうものを小馬鹿にしたがるというか浅いと思いたがるというか(ぎゃー!黒歴史!)そういうめんどくさいお年頃にこういう人を食ったような作品に出会っちゃうと、まんまとハマります(笑)。
大人になって読んでももちろん面白いんですけどね。
元ネタを知ってても知らなくてもついつい笑っちゃう清水義範作品。
気楽に手に取ってガハガハ笑って、ちょっとダークさなんかも入り混じっててめっちゃ楽しいです。
ちょっと気分がクサクサしている時にぜひ!オススメです!

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?