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船乗りクプクプの冒険

さてさて、復活してから笑える本の話が続いていますが、今日も懲りずに笑える本。

何歳ぐらいで読んだかなあ。多分小3あたりです。母からのオススメで読みました。
北杜夫は私の中では不思議な作家さんで、作品によって雰囲気が全然違いますよね。たとえば遠藤周作なんかも、狐狸庵先生シリーズなんかではとってもユーモラスですが、それでも遠藤周作らしさがあります。北杜夫はうまく言えませんが、ん?同じ人が書いたの?と思うぐらい違う。私の個人的な印象ではありますが💦
余談ですが北杜夫ファンの母から北杜夫作品については監修が入りまして、『楡家の人々』はトーマス・マンの『魔の山』とセットで読まされました。あと全く関係ないのに、『白きたおやかな峰』を読んだら次はこれ、と新田次郎に誘導されるという謎仕様。『夜と霧の隅で』はフランクルの『夜と霧』もセットでした。今となってはどれも読んでおいて良かったと思うんですが、それにしてもよく素直に読んだもんだと思います。さすがにこのへんは中学に入ってからでしたが、反抗期のわりに素直(笑)。

脱線しすぎました。
この『船乗りクプクプの冒険』は北杜夫の初の児童文学です。けっこうしっちゃかめっちゃかな話ではあるんですが、すごく面白い。
まずあらすじをご紹介。
勉強嫌いのタローが宿題のフリをして『船乗りクプクプの冒険』を読んでいるんですが、なんとこの本4ページしかない。作者のキタ・モリオが執筆を放り出してしまったために、こんなことになってしまったと書いてあります。なんていいかげんな話だ!と憤慨するタローですが、急に本の中に吸い込まれてしまうのです。気がつくと主人公のクプクプになってしまっていたのです。そこで知り合った大男のヌボーに連れられ、船に乗り込みクプクプとして航海するタロー。やがて元の世界に戻るためには、この世界にいるキタ・モリオを捕まえて続きを書いてもらわなくてはいけないと知り、キタ・モリオを追うことになるのです。
初っ端からメタ展開という児童書としてはなかなか斬新な作品です。このヌボーがまたいい味出していて、キタ・モリオにご立腹なのが面白い。あいつは知識がないからこの世界はめちゃくちゃな世界になっている、俺だってヌボーとかいう変な名前を付けられて嫌なんだ、なんてことをタローことクプクプに愚痴ります。
さらにはこのキタ・モリオ氏、ことあるごとに気絶するという特技(?)を持っているし、怖い編集者が追っかけてきたりもします。
一緒に船に乗り込んでいるナンジャとモンジャも嫌な奴なんですがどこかマヌケで憎めないキャラ。気難しい老船長もいい味出してます。
テンポが良くて随所に笑いどころがあるとっても楽しい作品。
全編に渡ってギャグ展開かと思いきや、クプクプたちが捕まってしまう原住民たちに、文明人を気取っている者たちの差別意識を批判させたりという中々皮肉の効いたところもあります。
航海と冒険を通していっぱしの船乗りになるクプクプの成長譚でもあり、続編が無いのが残念なぐらいです。
北杜夫の児童文学ではもう一つ、『ぼくのおじさん』も有名ですが、私はクプクプの方が好きかな。デタラメでユーモアに溢れていて、素直に楽しめるので。
それに漫画ではちょいちょい作者が登場するというのはあるんですが、児童書というか小説でこういう作者が登場するというメタ展開って珍しいような気がします。私が読んでいないだけかもしれませんが。漫画だとそれこそ手塚先生の作品からある手法ですよね。登場人物が作者捕まえて文句言ったり。とっても漫画がお好きな方で手塚先生ともお仕事されたりしていたので、漫画の手法を取り入れられたのかな?と思ったりします。
短いお話ではあるんですが、けっこう読み応えもあって楽しい作品です。ちなみに井上ひさしさんの『ひょっこりひょうたん島』はこの作品に影響を受けているそうで、ライオン王国のところはまさにクプクプの原住民たちと重なりますね。
関係ないかもしれないけど、井上ひさしさんの『ブンとフン』はお話の中から登場人物が現実に飛び出してきて作者の前に現れ、その後ナンセンスな事件を起こすという展開で、クプクプの逆バージョンなんですけど、これもちょっと影響あったりするのかな?なんて思ったりしてしまいます。『ブンとフン』の方がだいぶ皮肉が効いているんですけども。

ナンセンスでユーモアたっぷりのファンタジー冒険小説と言っていいのかな?どくとるマンボウシリーズが好きな方はこれも好きだと思います。子供でもサクサク読めるし、なによりこのトンデモ展開に引き込まれます。大人が読んでもやっぱり楽しい。
重い本を読んでいる時の箸休めなんかにもオススメです。
そんなところで今日は、「さようなら、バイバイよ」。

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